東京2020オリンピック・パラリンピックの開催が新型コロナ感染を爆発させることは、開催前から危惧されていた。案の定、開催期間中、感染者数は過去最大を更新し続け、国民の「安全と安心」は切り捨てられた。

 なぜオリンピックは強行開催されたのか。ジャーナリスト・後藤逸郎氏による『亡国の東京オリンピック』(文藝春秋)より一部抜粋して、愚挙の真相を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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西村秀一 国立病院機構仙台医療センターウイルスセンター長インタビュー

行政は空気感染を認めたがらない

──東京オリンピックの新型コロナウイルス対策は、まさに“ザル”としか言いようのない、杜撰(ずさん)なものですが、問題はそれだけでなく、ウイルスが接触感染や飛沫感染しかしないことを前提に立てられたところにあると思います。開催前、WHOやCDCは、これが空気感染することを認めていました。ならばオリンピック後、さらなる大流行が起きる可能性があると思いますが、そもそも空気感染とはどういうことですか。

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西村 人類が疫病流行の原因をどのように考えていたのかを遡ると、ミアズマ(瘴気)説にたどり着きます。簡単に言えば、「悪い空気が漂っていて、それを吸って病気になる」という話です。また、インフルエンザのように、天体の動きが原因で感染すると思われたものもありました。占星術師が、これが周期的に流行するのは天体の影響(influence)だろうと考えた。中世まではそういう時代でした。

 その次が、より科学的な細菌感染説の時代。この時、ミアズマ説は排除されたのです。空気感染などあり得ないと。ところが、その後、クリミア戦争で看護に従事した女性、ナイチンゲールが、治療には空気の換気が大事で、きちんと換気すると病気がどんどん少なくなることを証明した。すると、空気感染説が勢いを取り戻す。そういう戦いが20世紀初頭になっても延々と続いてきました。

 そこではだいたい接触感染論者か飛沫論者が勝って、ミアズマ説につながる空気感染をすごく嫌った。また、行政を預かるほうとしては、歴史的に空気感染ということを認めたがらない。認めたときのインパクトが大きすぎるからです。

 ただ、歴史的に空気感染の事例はあって、例えば旧ソ連の軍事施設からの炭疽菌(たんそきん)の漏出事故がそうです。風下にいた非常に多くの人たちが感染してしまった。そういう状態が起きると思われたら、感染症のコントロールというか民心のコントロールが難しくなるだろうと、行政を預かる側が心配するのはわかります。