母の衝撃の告白
――「どうでもいい日常」とおっしゃっていますが、岩井さんのエッセイはどこから読んでも楽しめます。特にお母様とのエピソードは、「息子を持つ母」として羨ましいと思いながら拝読しましたが、お母様のご感想は?
岩井 それが、マジでびっくりしたんですけど、読んでないんですよ、母。去年の暮れくらいに聞いたら「衝撃の事実教えてあげようか? 私まだ読んでないの」と打ち明けられました。
重版のたびに、身銭切ってめっちゃ買って親戚や近所の人に配りまくっているのに、読んでないってなぜ? と理由を聞いたら「熟成させて、熟成本にしてるの」と言われました。意味わからねぇ……。そもそもエッセイの中に母親が出てくるということも話していないので、もし読むことがあったら驚くでしょうね。僕も別に、「書いてあるから読んで」とは言わないですし。
――その少しツンデレなところも、仲が良くて羨ましいです。
岩井 ええっ、そうですか……!? 僕の中では、「35歳にもなって、思春期の高校生みたいなことを母親相手にやって、何しているんだよ」と読者に突っ込んでもらえたら面白いかなと思って書いたので、まさか「母親と仲が良くて羨ましい」と言われるとは思ってもいませんでした。そんなふうに読む人もいるんですね……。
僕のエッセイって「佃煮」だと思うんです
――すみません(笑)。でも、そう考えると、岩井さんのエッセイを多くの人が面白いと思うことも納得できませんか?
岩井 極端なたとえだと、僕のエッセイって「佃煮」だと思うんですよ。たとえば友達の家とか事務所に遊びに行くときに、ゼリーの詰め合わせを持っていくと老若男女問わずたいてい喜ばれるんですけど、佃煮の盛り合わせを持っていくのは微妙なわけですよ。そもそも佃煮苦手な人もいるだろうし、「高価なんだろうけど、もらってどうするんだよ」って思うの。それが小説とかエッセイじゃないかと僕は思うんです。だから、佃煮好きの人は僕のエッセイを買ったらいいし、佃煮好きじゃない人にまで強制したくはないですね。
先日も、島崎和歌子さんや磯野貴理子さんから「エッセイ読んだよ。面白かった」と言っていただき、「は!? あげてもないのに、買って読んでくださったんですか?」と感謝すると同時に、「そんなに佃煮好きだったんですね……」と思っちゃいました。
自分が作ったからと言って、「佃煮親善大使」みたいにはなりたくないし、佃煮を気に入ってくれた方に「ぜひその佃煮をいろんな人に広めてください」とも思わないです。そもそも僕、漬物食えないし、佃煮もそんなに好きじゃないので……。それでもエッセイを書くのは、「俺の作った佃煮が家にあったので、よかったらどうぞ」という感じなんでしょうかね。書くのは時間がかかるので、話す方が楽ですけど(笑)。
(取材・構成:相澤洋美 撮影:山元茂樹/文藝春秋)
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