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立ち食いそば屋は立派な蕎麦文化

 さて、10時20分に始まった取材もすでに14時半になりようやく終りを迎えようとしていた。真辺健治さんも阿出川光俊さんも本物の食のことを語りだすともう止まることを知らない男たちだった。ところで、丸勝かつおぶし株式会社は、有名蕎麦屋だけでなく「そば処かめや」などの立ち食いそば店にも多数納品している。真辺さんは日暮里の「一由そば」も大のお気に入りだそうで、最後にこんな質問をしてみた。

――老舗有名蕎麦屋以外に立ち食いそば屋にも鰹節を納品していますが、立ち食いそば屋は好きですか?

真辺 好きですね。高級蕎麦屋の店主や仕入れ先の味に厳しい知り合いをたまに、連れていきます。そうすると、そういう人たちも「確かにうまい。これはこれでアリだ」と頷いて食べているわけです。立ち食いそばには高級店と全く違う別の食文化があって、商売が成り立っている。そういう立ち食いそばの世界でも、本物の鰹節がもっと使われるようにしていきたいと願っています。

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減塩で本物の鰹節の味を

 丸勝かつおぶし株式会社では、最近は都内の公立小中学校に鰹節を納入する件数が増えているという。約380校の学校給食に本物の鰹節の出汁の味を広めている。幼少期から本物の味を知って、減塩やイノシン酸のうまみを味覚に記憶してもらい、健全な食生活を将来にわたって育めるようにという真辺さんの熱い思いがあるようだ。

 取材後早速、1本1500円の「蕎麦つゆ」を購入し自宅でもり蕎麦を作って食べてみることにした。そのつゆをひと口、飲んだときの第一声は「こりゃすごいわ」である。本鰹節・宗田節の風味は深くまろやかで、尖った塩味が皆無である。確かに老舗蕎麦屋の味が躍る。もり蕎麦ではそのままで、かけそばではお湯で同割にすればよい。うどんやそうめんにも合いそうだ。豆腐にかけてもうまいし、玉子かけご飯にも合いそうだ。真辺さんによると天ぷらを温めたこのつゆに浸してご飯にのせた天丼も相当いけるそうである。

綺麗なむらさき色が映えるつゆである
早速、自宅でもり蕎麦をを「蕎麦つゆ」でいただくと驚きの旨さに包まれた

 

 かつて家庭には必ずといっていいほど鰹節削り器が置いてあった。夕方になるとシャリ、シャリっと削る音がしていた。それがいつしか自然の流れのように、液体の麺つゆや白だしなどに置き換わっていった。そうした中でも、本物の味を覚えてほしいということが真辺さんのメッセージにあるように受け取った。鰹節や昆布などを使った出汁の味はフレンチなどでも注目されており、フランスに鰹節工場を作って提供するようなニュースも聞いている。世界の料理人にも、この唯一無二の「蕎麦つゆ」を是非味わってもらいたいと思う次第である。 

INFORMATION

「丸勝かつおぶし株式会社」
住所:東京都練馬区中村北2-19-11
http://kezuribushi.com