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ヌルッという感触で出血を確認…「犯人の目にはまるで感情がなかった」“新幹線無差別殺傷事件”現場に居た女性が明かす“犯人”の姿

『家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像』より #2

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 最初はガラガラだったが、新横浜駅に停車すると、大勢が乗り込んできて車内は一気に賑わった。そのほとんどは、日産スタジアムで行われた「東方神起」コンサートの帰り客である。車掌長の証言によると、新横浜からの乗客は880人になり、席の7割近くが埋まったという。

 指定席12号車で、小島は18番D席・通路側に座っていた。新横浜駅で、その隣の18番E席・窓側にX子さんが乗り込む。通路を挟んで同列の18番C席・通路側にはY美さんが座った。ともに、「東方神起」のコンサート帰りの客だ。

写真はイメージです ©iStock.com

 X子さんは、2日間のパックツアーで席を取っていた。この日、乗車に間に合わないかもしれないと心配したが、無事に乗れてホッとしているところだ。

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 Y美さんは母親と一緒にコンサートを見た後、別行動を取り、1人新幹線に乗っていた。席は乗車直前に母親が取ってくれた。最初は真ん中の席だったが、直前でキャンセルが出たため通路側に変更している。

 小島とX子さんが座る2列シートのD席とE席は、真ん中に5センチほどの肘掛けが一つあるだけで、ピッタリとくっ付いている。何か動作をすればすぐに身体が当たってしまう。そして、Y美さんと小島が座る、C席とD席の間の通路は幅1メートルほどで、1人立てば道が塞がるほど近い。

「犯人はこちらを見ることもなく無反応のままでした」

 X子さんは、小島の隣に座ったときの様子を裁判でこう証言した。

「犯人の前を通って席に座るとき、『すみません』と声をかけました。けれど反応はなく、こちらを一瞥することもなく、ただ前を向いていた。荷物を置いている途中、腕が当たったので『すみません』と言ったけれど、犯人はこちらを見ることもなく無反応のままでした。犯人は、リクライニングシートを倒さず、そのまま座っていました。襟が詰まったシャツを着て、静かすぎる印象です。会社員がラフな恰好をしている感じに見えましたが、スマホも見ていないし、不思議な人だなと思いました」

 21時42分、新横浜駅を発車。車内アナウンスが流れる。

「今日も東海道新幹線をご利用くださいましてありがとうございます。この電車はのぞみ265号新大阪行きです。停車駅と到着時刻をご案内いたします。次の名古屋には22時57分、京都23時32分、終点新大阪には23時45分に到着です。この電車の運転手はJR東海の――」