Y美さんの感じた、この“感情のない目”については、他の目撃者も同様の証言をしている。X子さんを攻撃している最中の犯人の表情をハッキリ見たという女性は、「無表情で目が据わっている」と感じたという。
彼女たちを助けるため、犯人と揉み合っていたZ夫さんは、小島の座る18番D席から2列後ろの20番D席に座っていた。そこは12号車の最後尾で、後方のドアから真っ先に逃げられる場所だ。しかし、Z夫さんは迷わず犯人に立ち向かった。
3日前より兵庫から東京出張に来ていたZ夫さんは、2日間の仕事を終えた後、同窓の友人とゴルフへ行き、この日は新幹線で夜遅くに帰る予定でいた。
ナタを置く
乗客たちは一斉に逃げ、12号車から11号車へ、11号車から10号車へと人がなだれ込んだ。10号車の後方を巡回していた男性車掌長は、すぐに異常を察した。
「刃物を持ってるぞ!」
「逃げろ!」
叫び声とともに、乗客が将棋倒しになり、パニックに陥っている。車掌長は、乗客を避難誘導すると、逃げてくる乗客をかき分け、すぐに11号車へ向かった。
シュッと自動ドアが開き、11号車に足を踏み入れる。車内を見渡すと、荷物が散乱し、残留客が数名いた。異常は見受けられない。
そのまま通路を歩いて12号車へ向かう。自動ドアが開くと、目に飛び込んできたのは、約10メートル先の通路の中ほどで、男性が男性に馬乗りになっている姿だった。
下の男性は、車掌長に頭を向ける形で仰向けに倒れている。上に乗った男は、男性にまたがって膝をつき、身体を車掌長に向けて前かがみになっていた。そして何かを振り下ろしている。そしてそこから、大量の血液が車掌長の足元に向かって流れていた。
犯人はまだ、車掌長の姿に気づいていない。
証人として法廷に立った車掌長は、衝立越しに、そのときの様子をこう語った。