コロナ禍により人と人との接触に障壁ができた今、物理的なタッチポイントを作りにくい有権者に対し、インターネットのさまざまなプラットフォームを介して接触を図る候補者が増えているという。
“DX選挙”と標榜する候補者もいるほど浸透しつつある“オンライン”ベースの選挙運動は、実際にどのように行われるのか。フリーランスライターで開高健ノンフィクション賞受賞作家の畠山理仁氏の著書『コロナ時代の選挙漫遊記』(集英社)より、一部を抜粋。候補者の腐心の数々を紹介する。(全2回中の2回目/前編を読む)
※文中敬称略
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選挙事務所などにみたコロナ禍選挙ならではの変化
今回の選挙では、コロナ禍ならではの大きな変化も感じた。それは選挙事務所の場所だ。
通常の選挙事務所は、多くの人が立ち寄れるように、通りに面した1階に設けられることが多い。
田中康夫も元ホテルだった建物の1階を借りて選挙事務所にしていた。
しかし今回の横浜市長選挙では、ビルの高層階に事務所を置く候補者が多くいた。山中は4階、小此木は5階、林は8階、松沢は6階だ。これは室内に多くの人が集まることを避ける意味でも新しい動きだと言える。また、街頭演説場所での運動員のマスクや、ビラ配りの際の使い捨て手袋も新たな常識となっていた。
選挙事務所で画期的な取り組みをしていたのは福田峰之だ。福田は今回、「DX選挙」を標榜。
リアルな選挙事務所を設置するのではなく、インターネット上に「バーチャル選挙事務所」を設置した。オンラインでの活動だけでなく、街頭演説も毎日していた。
リアルな街頭演説場所で福田に声をかけると、今回の取り組みを説明してくれた。
「従来の選挙事務所って、訪ねたことがありますか。ないでしょう。だけど、バーチャル選挙事務所は匿名でも気軽に入場OK。アバターもOK。政治家とチャットもできる。そうしたら、毎日50人ぐらいの若い人たちが訪れてくれるようになりました。こんなこと、これまでの選挙事務所では考えられなかったことです」
福田は内閣府でIT担当の副大臣を務めたこともあり、選挙事務所内での完全ペーパーレスや、選挙ポスター掲示作業時のデジタル地図活用による大幅効率化も図っていた。SNSでは言及してくれたユーザーに素早く反応。エゴサーチもして1件1件リプライをしていたようだ。YouTubeにも150本の政策動画をアップしていた。作る方も大変なら、観る方も大変だ。しかし、動画はいつでも誰でも観られるため、長い目でみれば資産になる。