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「そうそう、今、TikTokに上げた動画がバズっちゃってるんだよ」横浜市長選で見えた“オンライン”ד選挙”のリアル

『コロナ時代の選挙漫遊記』より #2

2021/10/06

インターネットを活用した選挙活動

「私は今回、多くの人を集める決起大会も室内集会も一度もやっていません。政治家は、まず自分たちが密にならない仕組みを作ってやらないと、誰も言うことを聞きませんよ。これまで見たことない選挙だから、いろんな人に『なにやってんだ』とも言われました。でも、DX選挙がこれからの標準になるよ」

 福田の街頭演説には30人ほどの聴衆がいた。その中には年配の女性8人のグループもあった。そのうちの1人に声をかけると、85歳だと教えてくれた。やはり、ここにはインターネットを見て集まってきたのだろうか。

「いや、息子や娘はインターネットをやるけど、私はできないからね。今日はお友だちと誘い合わせて聴きに来ました。連絡手段は電話です」

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 松沢成文もインターネットを大いに活用した。ウェブ上では漫画を使って政策を解説。『愛は勝つ』の替え歌『シゲは勝つ』をYouTubeで披露したり、テレビ番組『全力坂』(アイドルが坂道を全力で駆け上がる)を真似して松沢が横浜市内の坂を全力で駆け上がる動画を作ったりと、様々な方法で有権者との接触を試みていた。実際の街頭演説では、元神奈川県知事としての実績を紹介。経験と実行力をアピールしていた。

 太田正孝も毎日何度もツイッターで思いの丈を更新していた。実際の太田の語り口は落語のようで、聞いていて心地良いリズムがある。名刺交換をした翌日には直筆の手紙が送られきた。さすがは市議会当選11回、40年のキャリアを持つ政治家だ。坪倉良和は「1円も使わない選挙」を実践していた。ポスターも作らず、掲示板には1枚も貼らなかった。しかし、有権者から問い合わせがあると、一人ひとり丁寧に直接本人が対応していた。

 私が話を聞きたいとフェイスブックのメッセンジャーでたずねると「早い時間に会いましょう」との返信がすぐに返ってきた。何時だろう? 私が詳しい時間をたずねると「4時半がベスト」だという。午後ではない。午前4時半だ。坪倉の仕事場は横浜中央卸売市場内にある。選挙中も市場の広報活動をボランティアで引き受けているため、朝がものすごく早かった。