連絡した翌日午前4時半に市場を訪ねると、坪倉は市場で行われるセリなどを案内しながら、選挙に立候補することの素晴らしさを語ってくれた。
「私はお金をまったくかけない選挙を実践することで、これまで選挙に行っていない63%に語りかけている。立候補したことで他の候補者とのつながりができたから、選挙後も意見を交えることができる。私がこのやり方でたくさん票を取れたら、新しい人たち、若い人たちが政治参加に希望を持ってくれる。コロナ禍の今は、最高のチャンス。新しいことに日々挑戦しているから、ワクワクしているよ。この選挙が終わっても政治活動は続けるつもりです」
市場を一緒に歩くと、あちこちから「おう、市長」という声がかかる。坪倉が横浜市長選挙で提案した「食のパーク」は、現在、奈良県でプロジェクトが進行中だ。そこに坪倉も協力しているという。世の中には、ちゃんと見ている人がどこかにいるのだ。
「そうそう、今、TikTokに上げた動画がバズっちゃってるんだよ」
そう言って坪倉が見せてくれたのは、坪倉がパンツ一丁の姿から徐々にスーツ姿に変身していく動画「イケおじ変身」だった。
「TikTokでは若者への浸透を図れたらと思ってるんだ」
どの陣営もインターネットを活用していた。しかし、それが有権者に響き、実際の投票行動につながったかは不透明だ。ただし、コロナ禍の選挙では接触機会が限られる。インターネットを活用した選挙運動は不可欠なものになっている。
「ウソつき」は批判の範囲だが「クソババア」はいただけない
選挙戦を取材していると、候補者の多様性はもちろん、有権者の多様性にも気づく。
林文子の朝の挨拶を取材しているときには、通りすがりの女性が林に向かってこんな言葉を投げつけるシーンに遭遇した。
「ウソツキ! クソババア!」
それでも林は顔色を変えず、駅に向かう人たちに手を振り続けた。