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25年ぶりVへ…ミスター・ブルーウェーブ藤井康雄が明かす、優勝に必要なたった一つの思考法

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/10/05

「今、俺が日本で一番の幸せものだな―」

 1996年、長嶋巨人に勝って日本一になった瞬間、素直にそう思いました。1年間目標に向かって頑張ってきたことが報われた喜び。チームが一つになって戦った充実感。そして、震災から立ち上がる中で応援してくれたファンに胴上げを見せるという約束が守れた安ど感。あれだけは、あの心の底から湧き上がるような喜びだけは、正直言って経験した者にしか分からないでしょう。

現役時代の筆者・藤井康雄

中嶋監督の起用法が本当に素晴らしい

 あれから25年間、オリックスは優勝から遠ざかっています。このチームは阪急からオリックスへと親会社が変わる中でも、パ・リーグを代表する球団の一つとしてずっと優勝争いをしてきました。僕が入団した後も80年代後半からブルーサンダー打線の時代があり、イチローを擁して2連覇を果たした95、96年という強い時期がありました。

 それがなぜここまでチームが安定しない低迷期に入ってしまったのか。もちろん僕もコーチとしてユニホームを着ていた期間が長いので責任を感じていますが、一番は2004年の近鉄との合併が響いている気がしてなりません。2つのチームが一緒になる、という未知の状況の中で、なかなか一丸となれない違和感のようなものはずっとありました。チームの伝統や連続性といった部分が薄れ、ベテランの背中を見ながら若手が育っていくという流れが止まってしまったようにも思います。もちろん近鉄ファンも含めてファンの皆さんにも戸惑いがあったでしょう。

 プロのチームワークは仲良しこよしではありません。同じポジションのライバルと争いながら、勝つことでだんだんとチームが一つになっていく。優勝すればみんなうれしいし、給料も上がって恩恵があるわけです。逆に言うとやっぱり負けていると雰囲気は悪くなりやすい。誰のせいだ、というように責任転嫁も始まり、負のスパイラルに入ってしまいがちです。

 ただ、その歴史にもそろそろ終止符を打たなければいけません。今年はその千載一遇のチャンスと言っていい。山本由伸と吉田正尚という投打の軸に若手が加わり、優勝が目の前に見えるところまで来ている。僕は昨年最下位からのこの躍進の立役者は中嶋監督だと思っています。

 今季は中嶋(彼とはドラフト同期の古い仲なのであえてこう呼ばせてもらいます)の起用法が本当に素晴らしい。2軍から上がってきた選手はどうしてもベンチと戦ってしまうところがあります。打たなかったら代えられるんじゃないか、ミスしたらまた2軍なんじゃないかというようにね。でも、中嶋は「試合に出している以上は期待しているよ」「お前らに任せるからしっかり相手と勝負してこいよ」という雰囲気を作っているので、選手も対ピッチャーに集中できている。2軍監督時代から若手をしっかり見ていたことが生きていると思います。

 その一番いい例が杉本でしょう。僕もずっと見ていましたが、あの長打力は日本人でもそういるもんじゃない。今年の覚醒といってもいい活躍は中嶋の我慢の起用法で自信をつけたことが大きいはずです。紅林なんかも、最初はエラーもミスもあったけどよう我慢したよね。助っ人のジョーンズにしても代打の切り札というポジションでも彼が頑張れるように持っていったところは中嶋の技量だと思います。正尚という軸が戻ってきて、(山崎)颯一郎が6回目の先発でプロ初勝利、太田やT-岡田と日替わりヒーローが出てきて首位攻防戦に3連勝。チームはますます乗ってくるはずです。