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2021/10/24

底なしの男・雄平

 食事には本当に良く一緒に行きましたね。お酒を飲まないということで「利害」が一致していた僕らは、遠征のたびに連れ立っていろんなお店に行きました。名古屋ではよく「タコしゃぶ」の店に行きました。僕の知人にすすめられたお店ですが、レギュラーの打者に無安打を意味する“タコ”を食べさせるのはマズいかなと内心思っていたけど、翌日、ナゴヤドーム(現:バンテリンドーム)では打ちまくっていましたね。2人で「ジンクスなんて関係ねぇな!」と笑いあったのはいい思い出です。

 大阪では土鍋で炊かれたご飯が名物の、焼き肉食べ放題の店。雄平は土鍋を何度も何度もおかわりして、店のご飯がなくなったときは、本当に食べ放題で良かったと胸をなでおろしました。だって、僕より給料が4倍も5倍も7倍も10倍も多いのに、食事のときは先輩である僕が払っていたんですから。律儀に「三輪さ~ん、僕も払うよ」ってよく言ってくれたけど、先輩のメンツをたててくれて感謝しています。

 雄平はメシを本当に食べましたね。キャンプで通った宮崎・西都のホルモン焼きの店では、1時間以上かけてホルモン、センマイ、タンをたらふく、そして女将さんが握る名物のおにぎりを数え切れないほど腹に入れたあと、「三輪さん……僕、なんかもう、腹減ってきました……」って言い出したときはひっくり返りました。仕方なくちゃんぽん屋さんをハシゴしたけど、僕はただただ見ているだけ。この前戸田で、その話を向けたら「本当はもう一軒行きたかったんですよ~」とポツリと言ったときには、呆れてモノが言えませんでした。

2015年、リーグ優勝決定サヨナラヒットの“真実”

 引退会見で2015年にリーグ優勝を決めたサヨナラヒットの話をしていましたが、僕には「初めて明かす」と率直な思いを打ち明けてくれましたね。「今まで緊張したことはたくさんあったけど、あんなにも体がフワフワしたのは初めて」だと。その前までの4打席は本当に何も考えることができなくて、全くバッティングにならなかった。でも優勝を決めた5打席目はそれをパッと切り替えることができて、阪神の能見さんとの勝負に入っていくことができたと。しっかりと頭の整理をして、最高の結果を出した雄平は改めてすごいと思いましたね。

2015年10月2日、サヨナラヒットでリーグ優勝を決めた雄平 ©文藝春秋

 実は、僕もあの試合、途中から出場していましたが、サヨナラの場面で、全く違うことを考えていたことをここに「告白」します。

 もし、サヨナラヒットを打った11回裏で決められなかった場合、最終回の12回表は守備につかなければならなかった。その時プロに入って初めての感情が渦巻いていたんです。

「もう守りに行きたくない」――。

 12回の表に僕がエラーをしてあの試合を落とすとなると、翌日は当日移動で広島と試合、翌々日は東京ドームにとんぼ返りして巨人と最終戦での「優勝決定戦」になる恐れがありました。広島はその年最優秀防御率を獲ったジョンソン、巨人は菅野の登板が予想され、どちらも厳しい戦いになりそうでした。

(もし14年ぶりのこの優勝のチャンスを俺のミスで逃したら……野球人生は終わる)と勝手に考えていた僕は、ベンチから(マジ!雄平、一生のお願い!もう守りたくない……だからここで打ってくれ!)とプロ野球選手になって初めて全力で他人に祈っていたんです。

 よくよく冷静になって考えれば、同点のまま12回表を守りきれば優勝決定だったんですが、そうだったとしたら、12回裏の攻撃はちょっと盛り上がりに欠けたでしょうね。

最もキャッチボールをした仲

 そう言えば、神宮でのイニング間のキャッチボール相手はいつも僕でした。たぶん一番キャッチボールをしたのが僕じゃないでしょうか。グラブの手がしびれるほど、速い球を僕に投げ込んでくる雄平。元投手としてのスイッチが急に入るのか、「カーブ」と言っては、あまり曲がらず「抜けたぁ~」と申し訳なさそうにする。たまに暴投して、それを気にしすぎて、次はワンバウンド。また申し訳なさそうにする表情。「おい!いい加減にしろ!」ってツッコミながらも楽しかったことを、今回、戸田で雄平にトスを上げながら思い出していました。

 最後のユニフォーム姿が見れるのであれば、僕が上げたトスが役に立つかはわからないけど、雄平らしいスイングでファンを沸かせてください。僕もグラブをカメラに持ち替えて追いかけます。

 あらためて―−。

 雄平、19年間本当におつかれさま。落ち着いたらまたメシにでも行こう。もう食べ放題は無理だけど。

 雄平の“よき理解者” 三輪正義 拝

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