「すべての女性が輝く社会づくり」を目的とした規制緩和政策の一つに外国人の家事支援者受け入れがある。「ニチイ学館」は日本での家事代行業の需要増を見込み、19年3月末で632人、20年3月末は695人のフィリピン人女性を受け入れた。しかし、家事代行の需要は予想ほど伸びず、その後、雇い止めが相次いだ。
東京新聞記者の望月衣塑子氏はニチイ学館による雇い止めの実情を取材。10月8日に発売された著書『報道現場』(角川新書)のなかで、そのあらましを取り上げている。ここでは同書の一部を抜粋。フィリピン人女性たちの悲痛な嘆きを紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
◆◆◆
あるフィリピン人女性との出会い
新型コロナウイルスが再び猛威を振るい始めた2020年12月、年末年始は家でたまったDVDでも見ながら子どもたちとゆっくり過ごそうと考えていた。記者仲間にお正月に生活困窮者への食事の提供や生活相談を行う「大人食堂」があると聞いたのは、年末も押し迫った、そんなある日のことだった。前から関心があったのだが、足を運べていなかったので取材してみようと思った。
21年の元日、会場となった東京・四ツ谷の聖イグナチオ教会に向かう。凍てつくように寒い日だったが、会場では手作りのお弁当がふるまわれ、高齢の男性に交じり、仕事を失った若い男性や子連れの女性の姿もあった。なかでも目を引いたのは、全体の3分の1くらいを占めていた外国人の姿だった。コロナの影響が生活基盤の弱い人へ弱い人へと向かっているのを感じた。
1月2日は自宅で過ごしていたが、指宿昭一弁護士からメールが入った。指宿弁護士は外国人の労働問題に詳しい方で、直木賞作家の中島京子さんから以前、紹介してもらってあいさつを交わしたことがあった。
指宿弁護士はこの日、フィリピン人女性Aさんの相談を受けた。Aさんは、国家戦略特区の制度を利用して3年間の勤務をめどに来日しながらも、会社側から一方的に解雇を言い渡され、ほかの仕事を探しているうちに貯金もつき、手に千円札を握りしめて相談会に訪れたのだという。
「ベトナム人の留学生などを雇う中小企業での不当な労働や解雇は何度も聞いていたが、大手のニチイがこんなことをしているなんて信じられない。取材してもらえませんか」
雇い主が医療介護で人材派遣大手の「ニチイ学館」と聞き、私も驚いた。頭には前日の大人食堂で長蛇の列を作っていた外国人の方々の顔が浮かび、Aさんの問題を追ってみようと思った。
休暇が明け、改めてAさんから話を聞くことにした。
Aさんは国家戦略特区の家事支援事業で2018年に来日した。家事支援事業とは、安倍前政権が掲げた「すべての女性が輝く社会づくり」を目的に行われた規制緩和政策の一つだ。