非正規滞在で入管に収容されていたスリランカ人留学生ウィシュマ・サンダマリさんが施設内で亡くなったニュースは世間の大きな注目を集めた。体調不良で物が食べられなくなり、吐血までしたにもかかわらず、入管は何をしていたのか。救う手立てはなかったのか……。
ここでは、東京新聞記者の望月衣塑子氏の著書『報道現場』(角川新書)の一部を抜粋。日本の入管の異様ともいえる実情に迫る。(全2回の2回目/前編を読む)
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33歳の女性の死
ニチイの記事を書いているさなか、とんでもない話が飛び込んできた。名古屋出入国在留管理局に収容されていたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんが死亡した。まだ33歳だった。
死亡した際、名古屋入管は、中日新聞本社の記者の取材に「対応は適切だった」と短いコメントを出していた。いったい何があったのか。私は指宿弁護士から、ウィシュマさんを支援していた人たちなどを紹介してもらい、取材を開始した。
明らかになったのは、健康で明るく、日本で働くことを夢見て来日した1人の女性の姿だった。
ウィシュマさんは、スリランカで大学を卒業後、現地のインターナショナルスクールなどで子どもたちに英語を教えていた。そこで日本の子どもたちの礼儀正しさに感動し、17年、「日本の子どもたちに英語を教えたい」と日本語学校への留学を決意。母親は「安全安心といわれる日本ならば」と、娘の願いをかなえるために借金をして日本へ行くお金を工面したという。
意欲にあふれて来日したが、学校で出会った1人の年下のスリランカ人男性との交際を機に、状況が暗転していく。それまで月1日休むかどうかというほど熱心に勉強していた彼女は、交際が始まると学校の寮を出て、徐々に学校を休みがちとなり、学校から除籍処分とされ、退学となった。
寮を出た後も家族の元には度々電話が来ていたが、18年10月を最後に連絡が途絶える。心配する家族に「私は大丈夫だから。心配しないで。何かあったら私から連絡するから」と話したのが最後になったという。