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《日本の入管の“異様な実情”》無視され続けた「今すぐに助けて」の願い…死亡者が出ても変わらない“隠蔽体質”に迫る

『報道現場』より #2

2021/10/10
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 そもそも政府はなぜ改正が必要と考えたのか。要約するとこのような内容だ。

「不法在留者が増加しており、退去させたいのだが、拒む人が3000人もいる。日本社会が外国人を適正に受け入れるには、不法在留者や送還忌避者をゼロにする必要がある。今の入管法では強制的に退去させられない。そのために改正する」

 この文章を読んだとき、在留期間を超えて滞在している人に対してどのようなイメージを抱くだろうか。

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 アメリカのバイデン政権は、拘束された移民にも尊厳があるとして、「不法在留外国人」との呼称を禁じ、「市民権を持たない人」や「必要な書類を持たない人(Undocumented)」との言葉を使う方針を示した。日本政府の収容者への態度とは対照的だと感じる。

 私もこの原稿では不法在留外国人ではなく、オーバーステイの外国人、非正規滞在者などと記したい。

 こうした理由に基づいて提出されたのが、今回の改正案だった。一読すると、入管の権限を拡大し、外国人への監視と排除をより強化することを目的としていることに気づく。

 たとえば現行法では、収容者は何度でも難民申請を繰り返すことが可能だが、改正案ではこれに制限を設け、3回以上は原則、送還停止を認めず、拒否すれば送還忌避罪などの罰を科すというものだった。

 20年末時点で、送還忌避者(自国へ送還されることを望まない人)3103人のうち難民認定を申請中なのは1938人で、3回目以降の申請者は504人いた。改正案が成立すれば、504人は「相当な理由」を示さない限り、送還忌避罪が適用されることになる。

 法務省の上川陽子大臣は「過去に3回目の申請で難民認定された人はいない」と説明していたが、実際は違う。たとえば、イラン出身の男性は3回目の申請中に、難民認定義務付けの訴えを提起したところ、「宗教を理由とする難民に該当する」との判決が出て20年に難民認定されている。日本の難民認定率が、まったく改善されていない状況で、送還忌避罪を創設すること自体、非常に問題だ。

収容者の弁護士や支援団体に罰則を規定

 また、長期収容の解決策として法務省が盛り込んだ「監理措置制度」も疑問だ。この制度は収容者の弁護士や支援団体を、入管が「監理人」に指定し、入管が認めれば就労も可能になるが、監理人は収容者の生活などを監督し、報告する義務を負わされ、違反すれば10万円以下の過料も科される。

 本来、被収容者の権利を守るべき弁護士や支援者が、入管側に報告の義務を課されることになる。被収容者にとって不利益になることも含め報告を強いられることから利益相反関係に陥る可能性があり、支援者側からすればあり得ない改正だと思う。

 NPO法人「なんみんフォーラム」が支援に関わる弁護士や支援団体から意見を聴取した結果、「監理人を引き受けたいか」の質問に90%が「なれない・なりたくない」と回答、「罰則が規定されているから」との理由が多く、改正をしても人手不足は免れないだろう。

【前編を読む】下着を撮影され、携帯の中身もチェック…「こんなことを日本の大企業がやるなんて」外国人労働者たちの“悲痛な嘆き”

報道現場 (角川新書)

望月 衣塑子

KADOKAWA

2021年10月8日 発売

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