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 日本にいる非正規滞在者は、21年1月時点で、8万2868人。その多くは、日本の農家や工場や建設現場など、さまざまな場所で働いている。

 特に1980年代から90年代にかけては、日本の中小企業や経営者たちが、労働力不足などから外国人を大量に招き入れ、違法を承知で働かせることが続いていた。日本の高度経済成長を下支えしてきたのもまた彼らなのだ。

 オーバーステイは、確かに入管法という法律には反している。しかし、個別の事情はさまざまだ。彼らは、日本の不安定な労働市場の中で雇用の調整弁のような扱いを受けてきた。仕事をしていたのに雇用先が倒産して解雇されることもあれば、留学ビザで来日しながらも、何らかの理由で学校に通えなくなることもある。母国での反政府活動などの影響から迫害の恐れがあり、帰国を希望しない人もいる。

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 法律に違反した際も、制限が行われるならそれに見合ったものでなければならない。たとえば、車を運転していて一時停止を無視したからといって、無期懲役になったりはしない。これを法律の用語で「比例原則」というそうだ。それに照らすなら、オーバーステイは、長期にわたって自由を奪うほど悪質なのか。

 日本の入管における収容者への扱いについては、かねて問題が指摘されてきた。国連の「拷問禁止委員会」などから、「入管の収容者への扱いは拷問に当たるのではないか」など、再三にわたって懸念が表明され、勧告も受けている。私が支援団体などに話を聞いたところ、入管収容者の死亡は1993年以降で24人にも上るという。病死のほか、自殺が7件。頭がい骨骨折など外傷による死亡もある。2007年の時点で、拷問禁止委員会から、処遇に関する不服申立を審査する独立した機関の設置や拘禁期間に上限を求めることなどを勧告されている。勧告を受けて、入国者収容所等視察委員会という第三者機関もできた。しかし20 年には国連人権理事会の「恣意的拘禁作業部会」から「国際法違反」と指摘された。

 このように状況が改善されてきたとはまったく思えない。収容者の事故などが起きるたびに入管庁(19年までは入国管理局)は、医療体制の見直しや職員の意識改革を打ち出してきたが、収容者を取り巻くありようは、驚くほど変わらない。

改正法案は入管の権限強化

 ウィシュマさんの事件が起きたこの時期、入管法の改正案が国会に提出されていた。この二つの事象が同時期だったのはあくまでも偶然だ。しかし両者は大きく関わり合いながら、事態が進行していく。

 入管法改正案、正式名称「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案」は、ウィシュマさんの死亡以前から、政府が進めていたものだ。すでに21年2月19日に閣議決定されている。