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《日本の入管の“異様な実情”》無視され続けた「今すぐに助けて」の願い…死亡者が出ても変わらない“隠蔽体質”に迫る

『報道現場』より #2

2021/10/10
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 20年8月、ウィシュマさんは静岡県清水町の交番に「交際相手にDVを受けている。中絶を強要され、赤ちゃんを堕ろした」などと言って、自宅にあった1350円を握りしめて駆け込んだ。そこで在留期限が過ぎていることがわかり、名古屋入管に収容された。

 同年12月ごろから、支援者たちが面会を始める。支援者の一人、シンガーソングライターの真野明美さんはウィシュマさんがDVで傷ついているのを感じ、「一緒に暮らそう」と伝えると、ウィシュマさんは次第に心を開き、「もっと日本にいたい」と希望を言うようになったという。

 入管側は、スリランカに帰国するつもりだったウィシュマさんに対して、当初は丁寧に対応していた。しかし、在留を口にしたとたん、職員たちは「帰れ、帰れ」「そんなことを言っても無駄だ」などと言うようになる。職員たちの豹変にショックを受け、DV被害へのケアもまったく行われないままだったこともあり、ウィシュマさんは1月上旬からものが食べられず、食べても吐いてしまうようになる。同28日には吐血。名古屋入管は2箇所の外部病院で内視鏡などの検査は受けさせたが、点滴や入院などの措置は一度も取られなかった。

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 死の直前まで何度もウィシュマさんは、「点滴をして」「今すぐに助けて」と訴え続けた。支援者たちも「このままでは死んでしまう。すぐに入院と点滴を」と入管側に掛け合ったが、「監視カメラで適切に管理している」などと答えるだけだったという。

※写真はイメージ ©iStock.com

難民受け入れに消極的な日本

 ここで外国人が日本に滞在するときの手続きについて、簡単に押さえておきたい。

 外国人が日本に入国する際、ビザが必要な国と不要な国があるが、就労や留学など長期で滞在する場合にはどちらの国でもビザが必要だ。ビザには原則的に滞在期間が設けられている。

 滞在期間が過ぎてしまった外国人は、非正規滞在(オーバーステイ)となる。更新は可能だが、だれでも更新できるわけではない。たとえば就労ビザで滞在している場合、更新の申請のときに無職であれば、延長してもらえないかもしれない。留学ビザにもかかわらず学校を退学した場合なども同様だ。

 オーバーステイが発覚したときに収容される施設が地方出入国在留管理局(入管)だ。入管は、日本に出入国する外国人を管理する行政機関で、出入国在留管理庁が管轄しており、担当省庁は法務省だ。入管の役割として「すべての人の出入(帰)国手続き」「外国人の在留審査」「外交人の退去強制手続き」「難民認定手続き」などがある。

 収容に保護というイメージを持つ方もいるかもしれないが、実態は大きく異なる。鉄格子のある部屋に数人で入れられ、自由を奪われる。大きく人権を制限する措置にもかかわらず、その裁量は入管職員に与えられている。収容期間の定めもないため、いつまで閉じ込められているかはまったくわからない。