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 日本では、高齢者の介護や家庭の掃除など家事支援の仕事をする目的での外国人の入国は、入管難民法で原則認められていない。国家戦略特区の中でその規制を外し、現在、東京、神奈川、愛知、大阪など6つの自治体で在留資格を認めている。ただし一定の条件があり、実務経験1年以上、かつ家事支援の知識や最低限の日本語能力などが求められる。

 受け入れ側の日本の企業も、各自治体に労働条件や安全衛生などを報告し、監査を受けなければならない。そのうえで最長で5年間、雇うことができる。17年3月から外国人の家事支援者の受け入れが開始され、この制度の下で21年6月末現在、728人が働く。

「日本語試験で合格ラインに達していない」との理由で突然契約打ち切りに

 ニチイ学館でのAさんは、勤務態度もよく、顧客の評価も高くて無断欠勤などもなかったが、2年目の契約が終わる直前の20年11月、マネージャーから突然、契約更新できないとの知らせを受ける。「日本語の試験で合格ラインに達していない」との理由だった。

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 それまで毎月、日本語の試験はあったが、合格は絶対条件ではなく、契約打ち切りを打診されたことはなかった。そもそも家事支援の清掃スタッフなので、簡単なあいさつ程度の日本語ができればよく、日本語能力が問われる仕事ではなかった。

 来日に当たっては、契約更新で3~5年は仕事ができると聞いており、日本で働くために3か月勉強し、日本語の面接や料理の訓練を1年以上重ねてきていたため、大きなショックを受けた。

 またAさんには簡単に帰国できない事情があった。離婚後21年間、女手一つで3人の子を育て、娘2人は結婚し自立したが、息子は大学で学費がかかり、母親の面倒も見ているからだ。

 フィリピンでもコロナ禍が拡大、フィリピン統計庁が発表した失業率は8.7%(21年4月)と高く、戻っても仕事が見つかるかわからない。Aさんは「日本で早く次の仕事を見つけなければ」と、仕事を探すため早期退職を申し出たところ、自己都合退職扱いにされた。

 国の指針では、「本人が在留を希望する場合、雇用主は新たな受け入れ先の確保に努める」との規定があったが、ニチイは別企業への斡旋もせず、フィリピンへの帰国を求めた。同時期に来た8人の仲間も同じ理由で雇い止めになり、失意の中、5人が帰国したという。

 契約解除されたAさんは国家戦略特区のビザではなく、勤務時間が制限される特定活動ビザへと変更を余儀なくされ、週40時間の労働時間は28時間へと切り下げられ、滞在期間も21年5月末までに短縮されてしまう。

「なんとかビザが延ばせる仕事をみつけなければ」と、4カ所のハローワークとネットカフェで仕事を探しながら、カプセルホテルや低額の宿泊所を転々とした。気付くと手持ちの現金は1000円となり、相談会に駆け込んだ。

「できるなら3年、5年と仕事をしたいと思っていました。(契約を更新しないと言われ)傷つき、とてもショックを受けました。子どもの学費や母親を支えるためにも帰るわけにはいかないんです」

 私とほぼ同じ歳のAさんが、切々と訴える姿に言葉もなかった。