1ページ目から読む
4/4ページ目

 その件を尋ねると、ニチイは短いコメントを返してきた。

「契約更新に至らず退職した人がいたことは事実。第三者管理協議会に稼働率の低さを指摘され、雇用計画を見直さざるを得なくなった。フィリピンの関連機関に言われ、退職者の帰国を前提に対処していたが、今後は協議会とも協議の上、可能な範囲のサポートを検討したい」

抜き打ちで部屋を訪れ、干された下着の写真を撮る

 私が問題を追いかけているさなかの2月中旬には、ニチイがフィリピン人女性たちの住む従業員寮やシェアハウス約20か所を抜き打ちで一斉調査を行っていたことも判明した。さらなる解雇を進めるために、女性たちにとってより不利な情報を洗いだそうと、プライバシーを完全に無視した手口で検査したことを知り、私は一気に怒りがこみ上げた。

ADVERTISEMENT

 この情報を寄せてくれたのも関係者だ。その方も、「こんなことが許されていいのか」と心を痛めていた。

 抜き打ち検査は、同社の日本人従業員が二人一組となって部屋を訪れ、フィリピン人女性たちの同意もなく引き出しを開けたり、部屋干しの下着の写真を撮ったりしたという。

※写真はイメージ ©iStock.com

 部屋に入られたフィリピン人女性は言う。

「下着姿の人もいる中、携帯電話もチェックされるなど、プライベートな部分にまで入り込まれ、調べられた。そしてその後、何人かが雇い止めになりました。彼らは日本人にも同じことをするのでしょうか。こんなことを日本の大企業がやるなんて。人減らしの理由をつくろうとしているようにしか見えない」

 不在の人もいるなかで、ベッドや引き出しの中を調べたり、写真を撮ったりして在宅勤務の態度や服装、整理整頓の様子などをチェックする。人権という概念が欠落している。どう考えてもやりすぎだ。

 私はこれらのことに対して、ニチイ側に見解を求めた。

「個別に回答することは差し控える。悲しい思いをした元スタッフがいることを重く受け止め、真摯に対応する。相談窓口の設置とともに対話に向けて調整を進めている」

 またも短いコメントが返ってきた。

 さらにその後の取材で、ニチイは、雇い止めや自己都合退社をするフィリピン人107人に対し「退職後は、ニチイからの支援はすべて必要なく、放棄する」などと書かれた「確認書」にサインをさせるなどしていたことも判明した。雇い止めだけでなく、責任回避のための文書にサインさせるとは信じられなかった。

 これについてはどういうつもりなのか。

「『権利放棄書』として捉えられている可能性があると推察するが、確認書はあくまで双方の意志・認識の確認を行った。確認書の提出後も個別相談に応じ、帰国手配を含めた支援をしている」

 その後、この問題は国会などでも取り上げられ、ニチイは釈明に追われた。

 9月28日には、内閣府などでつくる第三者管理協議会が、同社に対し行政指導を行った。雇用の改善や、家事支援事業の需要を喚起し、継続して働く希望がある人には、別の受け入れ機関を斡旋することなどを求めた。さらに、寮などの住居への立ち入り検査や、室内撮影を行う場合は、事前に目的や内容、時間帯を説明し、女性たちの理解を得た上で、プライバシーに最大限配慮して行うことも指導した。

 記事が出たことで、ニチイや内閣府の対応が変わったことを心からうれしく思う。傷ついた女性たちの気持ちが少しでも回復し、やっぱり日本に来て働いてよかったなと思ってもらえるようになってほしい。

【続きを読む】《日本の入管の“異様な実情”》無視され続けた「今すぐに助けて」の願い…死亡者が出ても変わらない“隠蔽体質”に迫る

報道現場 (角川新書)

望月 衣塑子

KADOKAWA

2021年10月8日 発売