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雇用の調整弁にされる外国人

 なぜニチイ学館はこのような対応をしているのか、取材を進めた。

 ニチイ学館は日本での家事代行業の需要増を見込み、18年2月に特区での事業に参画した。19年3月末で632人、20年3月末は695人のフィリピン人女性を受け入れた。

 しかし家事代行の需要は予想ほど伸びなかった。そのなか、19年9月には事業を推進した創業者の寺田明彦前社長が死去。家事代行事業を含めたヘルスケア部門は19年度、21億円の赤字となる。

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報道現場』(角川新書)

 取材を重ねるうちに同社の関係者からも情報が寄せられるようになった。同社の20年8月に作成されたとされる文書には次のように書かれている。

「スタッフ評価制度による契約不更新(雇い止め)の実施」

「毎月実施の各種研修を基に、年間合格単位以下の者を雇い止める」

 並ぶ「雇い止め」の文言。事業を黒字化するという論理はわかるが、これは外国人労働者の使い捨てではないか。

 私は同社に回答を求めた。同社は、私がアクセスした当初から一貫して、取材に対しては面談でなく、メールで回答するとしていた。メールで質問を送ると、フィリピン人女性たちの評価制度に対して返答があった。

「当社独自の日本語試験を年4回、行っていた。その他の要素も含め改善が見られない人は、契約を更新しなかったケースもある」

 これだけを読むとそれほど悪質とは思えない。実際はどうだったのか。声を寄せてくれたのは、同社の関係者だった。私にこう怒りを吐露した。

「フィリピンから来る人たちは、シングルマザーを含めて一家の大黒柱として、きちんと働きたいとプライドをもってやってきている女性が多い。さんざん期待をさせておきながら、ニチイは、労働需要が生み出せないとなった途端、『日本語能力に問題がある』などとその場しのぎの理由をつけて、一斉に雇い止めにしました。彼女たちを雇用の調整弁として扱っており、あり得ない」

「大量に女性を受け入れたが多くは仕事がなく、この1年は研修もせずに問題集を渡し自習させ、試験を受けさせ続けた。教育らしい教育はしていません」

 フィリピン人女性の頑張りを見ていた関係者たちは、社内の理不尽なやり方に憤り、女性たちへ罪悪感を覚えて、彼らもまた苦しんでいるように見えた。

繰り返し試験を実施して雇い止めの理由に

 関係者やフィリピン人女性たちの話によれば、ニチイ学館は20 年1月ごろから、契約更新しない根拠となる試験の頻度を増やすようになった。日本語、掃除技術や知識、社内コンプライアンス、礼儀作法など多岐におよぶ試験を、ペーパーや実技で繰り返したという。8月以降は総合点の悪い女性に追試を受けさせ、合格点に満たないと契約更新しなかった。

 あるフィリピン人女性はこう証言した。

「繰り返し試験され、結果が悪い人は、事務所に名前や番号が貼り出され雇い止めになっていました」

 21年3月末は489人が契約更新される見込みだったが、206人が退職した。自己都合の退社もあるが、一部は雇い止めだという。同社によれば98人が帰国した。驚いたことに、日本に残った108人のうち、48人の所在が把握できていない。