家族のケア(家事、介護、年下のきょうだいの世話、感情的サポートなど)を担う子ども・若者たちを「ヤングケアラー」と呼ぶ。厚生労働省が2021年4月に文部科学省と連携のもと行った全国調査によると、中学生で5.7%、全日制高校生で4.1%、定時制高校生で8.5%、通信制高校生で11.0%が「ヤングケアラー」にあたるという結果が出ており、そうした少年少女たちは決して特異ではない。

 はたして、彼らはいったいどのような悩みを抱え、日々をどのように過ごしているのだろう。ここでは、大阪歯科大学医療保健学部教授の濱島淑惠氏の著書『子ども介護者 ヤングケアラーの現実と社会の壁』(角川新書)の一部を再構成。「ヤングケアラー」の支援活動も行う濱島氏による調査で見えた実情を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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「そんなこともできないなら、家にいなくていいし、死んできて」

 祖父母のケアを担うヤングケアラーとともに、精神疾患、精神障がいを有する母親のケアを担うヤングケアラーも多いことが複数の調査で示されている。そのひとりがBさんだ。

 Bさんの母親は精神疾患を有していた。体調がすぐれない、感情的な不安定さなどがあったため、小学生の頃から家事、感情的サポートを担っていた。

 担ったケアのうち、長い時間を占めたのが感情的サポートである。これは精神疾患の母親のケアを担うヤングケアラーの特徴とも言えるだろう。

 家にいるときは、基本、母親の愚痴を聞いていた。家のなかの会話は母親の話が中心で、自分のことを話すことはほとんどなかった。「疲れたな」と思いながらも、なぜかずっと母親の話を聞いていたという。

 また、ひどく叱られることが多かった。今から思うと、理不尽な理由で、通常のレベルを超えた叱られ方だった。たとえば掃除等の家事が母親の思ったようにできていないときなどだ。

「そんなこともできないなら、家にいなくていいし、死んできて」

 そう言われたときのことをBさんはこう語った。

「ベランダで、もうひとりで落ちたらいいのかなって。ボロボロボロボロ泣いて……」

 そのときはそれが普通だったが、今から思うと理不尽な叱られ方を日常的にされていたという。このように、愚痴を聞く、理不尽な感情をぶつけられるという状態は、「感情の受け皿になる」という感情的サポートのひとつであり、これもまたケアを担っているということになる。

 ピンとこない方も多いかもしれないが、少し考えてみてほしい。福祉、介護の現場では、たとえば認知症や精神疾患を有する方の暴言、怒り、悲しみ、不安を受け止め、それに合わせて自分の感情もコントロールしながら接している。