祖父母の介助、障害を有するきょうだいの世話、家族の薬の管理……。様々なかたちで家族の“介護”を担わざるをえない「ヤングケアラー」と呼ばれる子どもたちが、日本には数多くいる。

 そうした子どもたちの支援活動を行う大阪歯科大学医療保健学部教授の濱島淑惠氏は、著書『子ども介護者 ヤングケアラーの現実と社会の壁』(角川新書)のなかで彼らの実情を紹介している。ここでは、同書の一部抜粋に加え、濱島氏による寄稿を掲載。ヤングケアラーたちの苦悩に迫る。(全2回の1回目/後編を読む)

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知られざる「ヤングケアラー」の実態

 小学生の子どもが、家族を介護(ケア)するために学校に行けない。これは遠いどこかの国の話ではない。現代日本においてこのようなことが起こっていることをどれくらいの人が知っているだろうか。

 ヤングケアラー――家族のケア(家事、介護、年下のきょうだいの世話、感情的サポートなど)を担う子ども・若者たちを「ヤングケアラー」と呼ぶ。

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 最近になって、複数のマスコミ報道もあり、認知度は少しずつ上がってきたと思われる。2020年度、厚生労働省は文部科学省との連携のもと全国調査を実施し、2021年4月にはヤングケアラーの存在割合について、中学生で5.7%、全日制高校生で4.1%、定時制高校生で8.5%、通信制高校生で11.0%という数字を示した。10代、20代、ときには10歳未満でケアを担い、学校に行けなくなる、体を壊してしまう、友人関係がうまくいかなくなるという子ども、若者たちが相当数いるのである。

 2021年3月、国はヤングケアラーに関するプロジェクトチームを立ち上げ、同年5月に報告書をまとめ、方策を示すにいたった。

 急にそのようなことを言われても、にわかには信じがたいかもしれない。私自身、初めて聞いたときはそうだった。調査を始めたころには、「そんな子どもたちがそんなにいるはずないだろう」などのお𠮟りを受けることも多かった。

 私は2016年に国や自治体に先んじて、大阪府立高校10校の生徒(約5000名)を対象とした調査、2018年度に埼玉県立高校11校の生徒(約4000名)を対象とした調査を実施した。手前みそな言い方になるかもしれないが、これらの調査が子ども自身に対して尋ねた実態調査の先駆けといえる。

 最近、ようやく彼らの存在が社会的に認められ始めたという実感がある。この変化はうれしい限りであるが、懸念もある。表面的な実態把握や支援体制の構築に留まる、一時の流行で終わってしまう可能性は、まだ残っている。今もなお、ヤングケアラーと聞いて抵抗感を持つ人はいるであろう。