危ない――。

 観客は思わず、息を呑んだ。ライブ中盤、還暦の男がステージから落下した。

 9月26日、田原俊彦(60)が埼玉県のサンシティ越谷市民ホールで全国ツアー『HA-HA-HAPPY』の7公演目を行なった。

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落下しても、何事もなかったかのように歌い続けた

 仙台公演から中2日で臨んだこの日、序盤から田原は「ハッ!」と数回叫んだ。通常と異なるタイミングでの気合の入れ方に、逆に疲労が見て取れた。腰を痛めているせいか、いつもと比べて重心も高い。ヒット曲を2番から歌ってしまったり、途中で歌詞が飛んだりする曲もあった。「口パクをしていない証拠」「それもライブの魅力の1つ」などと庇うファンもいるだろう。ある程度のミスは仕方ないにしても、全てを許容してしまえば発展はない。

田原俊彦(2019年デビュー40周年ライブ) ©文藝春秋

 ライブ中盤、11曲目を歌いながら下手側に歩みを進めて踊っている途中、田原はステージから落下した。それでも、歌うことを止めず、床から高さ1メートル数十センチありそうな舞台へ自力で戻り、何事もなかったかのように歌い続けた。

 普通ならこの後、落ちた場所で舞台面(前方)まで足を伸ばすことは避けるだろう。しかし、田原は15曲目、20曲目でいつもと同じように落下した場所で同じようにギリギリまで足を前に持っていった。他の曲中には、中央でステージからつま先をハミ出しながら歌うこともあった。まるで巨人の江川卓がホームランを打たれたバッターに対し、同じコースに同じ直球で勝負するかのようだった。

 なぜ、田原はステージから落下しても、足を前へ前へと踏み出していったのか。

 落下について触れることはなかったが、ヒントはライブ終盤のMCにあった。彼は「これしかできないですから」と言った。ステージで歌って踊ることしかできないという意味だ。

 果たして、田原俊彦は本当に“これしかできない”のか。『教師びんびん物語』(フジテレビ系)で後輩の榎本英樹役を演じた野村宏伸はこう話している。