「教員からの不適切な指導や対応を契機として、自殺に追い詰められた事実を知ってほしい」

 2013年3月3日、北海道立高校1年生の、悠太さん(享年16)が自殺した。遺族によると、吹奏楽部の顧問が、他の部員たちに「悠太と関わるな」と言うなど、悠太さんを孤立させたうえ、前日に不適切な指導をしたことが自殺の原因だとして訴えていた。

控訴審判決の後の記者会見で(2020年11月) ©️渋井哲也

 控訴審の札幌高裁(長谷川恭弘裁判長)は2020年11月、遺族の訴えを棄却したが、自殺前日(3月2日)の指導は不適切で、自殺の契機だったと認定した。遺族側は、上告をせずに、道教委との話し合いの道を選んだ。2021年9月24日、判決後初めて両者は面談をした。

ADVERTISEMENT

連絡網メール以外の連絡禁止、部員には「悠太と関わるな」と指示

 不適切な指導をめぐっては調査委員会が設置されたり、裁判になったりするなど、社会問題に発展するケースが相次いでいる。文部科学省は、2010年に作成された学校・教職員向けの基本書「生徒指導提要」(以下、「提要」)の改訂を目指しており、協力者会議で議論が行われている。「不適切な指導」があることが前提の議論がされるか注目したい。

 札幌高裁判決などによると、2013年1月末、悠太さんと他の部員とのメールトラブルがあり、学校側は悠太さんのみを指導対象とした。悠太さんに対し、連絡網のメール以外は禁止とし、部員には「悠太と関わるな」と指示した。

 2月、部内で別の問題が生じた。顧問は「悠太が嘘を吹聴した」と決めつけ、自殺前日の指導が行われた。指導の場所は音楽準備室。上級生の部員4人を立ち合わせた場で顧問は事実確認せず、「何のことかわかっているな?」「俺なら黙っていない」などと叱責。他の部員と一切のメールを禁止した。

亡くなる2日前の悠太さん(遺族提供)

『提要』に沿っていない指導だったことは明らか

 自殺前日の指導について、判決は、指導の前提事実を十分に伝えず、部員間のメール禁止という部に残す条件が判然とせず、「適切とはいえず、本件生徒に対して教育的効果を発揮するどころか、かえって本件生徒を混乱させる指導になってしまったと言わざるを得ない」「組織的に対応をしていれば、不合理な指導は回避できた」「不合理な指導が自殺の『契機』になった」などと指摘した。

 遺族はこう話す。

「『提要』は、生徒指導を行う教師側の心得です。本来なら指導の必要性を教員で共有し、その必要性に合った指導を教員が行うことになっています。その指導も目的や守秘義務について明確に伝えるなど、面談のやり方等も細かく記されています。

 でも悠太に対する指導は、『提要』に沿ったものではありませんでした。それについて裁判所は、道教委の主張とは反する認定をしました。それでも、道教委は指導が“適切”との判断を変えていません。となると、提要の意味は何なのでしょうか」