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「ゆくゆくは亡くなる方だから、仕事だから、とは思えなかった」

 苦しむ被害者を何人も見てきたはずだが、それでも次々と患者の点滴袋に消毒液「ヂアミトール」を注射器で混入していった久保木被告は、その動機について「自分が担当の日に患者が死んで、遺族に説明をするのが嫌だった」と捜査段階で供述していた。

 10月11日には、被告人質問が行われた。紺のジャケットを着て、長い髪を後ろで結んだ久保木被告は証言台の前に立った。

久保木愛弓 ©️共同通信社

 この日は事件後、初めて公の場で話すということで注目度は高く、多くの傍聴希望者が横浜地裁に集まった。午前10時に開廷すると、弁護側の被告人質問が始まったのだが、小さな声で話す久保木被告に、裁判長が発言内容を確認することが何度もあった。

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 まず弁護人は久保木被告が看護師を目指した高校生の頃から、看護学校に入学するまでの経緯を尋ねた。実際に看護師になると、「患者が亡くなるところに立ち会うことがあり、精神的に辛くなりました」と被告は小さな声で話した。その後、2014年4月に精神科を受診し、3ヶ月間、休職したという。

 2015年5月に久保木被告は大口病院に転職した。大口病院を選んだ理由については「延命措置をとらないから」と話した。しかし、大口病院でも「患者が亡くなることが辛かった。ゆくゆくは亡くなる方だから、仕事だから、とは思えなかった」と当時の心境を説明した。

 続いて、「私の勤務中に患者が亡くなると遺族に説明しなければならない。ヂアミトールを入れて私のいないときに亡くなれば勤務のときに亡くなるリスクがなくなる」と殺人の動機を改めて語った久保木被告。ヂアミトールを使用した殺害をいつ思いついたか尋ねられると「覚えていません」と、この日何度も繰り返すことになる言葉を発した。

横浜地方裁判所 ©文藝春秋

 殺意については「ニュースで患者さんが消毒薬を注射されて亡くなったことを知っていた」と話した。自らの行為の危険性を十分に認識していたことを窺わせた。

 弁護人の質問は徐々に3人の被害者の点滴袋にヂアミトールを混入させたという事件の核心部分に迫っていった。