「文藝春秋」11月号より「綾小路きみまろ誌上独演会『コロナと毒舌』」を一部公開します。
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客席が遠くに感じた
「中高年のアイドル」と呼ばれて幾星霜、昨年、私は70歳、古希を迎えました。古希というと、歩くだけで膝が「コキコキ」と鳴りますし、寄る年波には勝てません。
実を申しますと、東京五輪の年に芸能活動に一区切りをつけることも考えていました。古希と東京五輪のセットがいい節目になるなと思いましてね。しばらくハワイなんかで悠々自適に暮らすのもいいな、なんて思っていました。ところが状況も予定もすっかり変わってしまった。
今でこそ笑いにしていますが、コロナが感染拡大し始めた当初、精神的に参ってしまいました。
2020年2月に宮古島で2日間にわたりライブを行いましたが、それを最後に、ほとんどのライブが延期・中止となりました。それまで年間約100本以上のライブに全国各地で出演してきましたが、半年以上ライブができなくなったのです。チケットを買っていただいたお客様はお待たせするし、ライブを手伝ってくれる音響や照明などの制作スタッフの仕事もなくなる。私だけの問題ではないので、本当に苦しかった。
9月頃からライブを再開しても、感染防止のため、お客様は1席おきにしか座れません。1000人キャパのホールに500人といった具合です。
さらに、チケットを買って会場に行こうとしたら、お子さんから「行くな」と止められるお客様もいるんですね。「会場で感染でもして孫にうつったらどうするの」って怒られているわけです。
再開後のライブはある種、異様な雰囲気ですよ。お客様全員がマスクはもちろん、最前列にはフェイスシールドを付けて着席しています。会場中がワ~ッと爆笑する代わりに、最前列の年配の女性がマスクをして私をジっと見つめてくる。「大声を出さないで」と言われているから、皆さん本当に大人しい。マスク越しで遠慮がちに笑うから、笑い声が聞こえず、客席が遠く感じられるんですよね。