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マンガは事実を伝えられる最高の方法

――押川さんはご自身の経験をノンフィクションとして書籍にもされています。マンガ化もしようと思われた理由を教えてください。

押川 マンガが、現時点で事実を伝えられる最高の方法だからです。メンタルヘルスの分野は、現場の真実を伝えることが何よりも大事です。私は過去にドキュメンタリー取材なども受けてきましたが、少しでも批判を受けそうな言動はすべてカットされ、本当のことはなかなか言わせてもらえませんでした。今は、メディアはより炎上を恐れて、精神疾患患者を“デパートの包装紙”に包んで、ある種のブランドのように扱っているなあと感じます。

 ノンフィクションも同じです。メンタルヘルスの世界は些細な言葉一つが反射的に差別や偏見として捉えられがちですから、活字の世界でも究極の事実は書かせてもらえません。「どうしても書きたいなら小説にしてくれ」と言われたこともあります。

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 その点、マンガは言葉では伝えにくいことも、絵で表現することができます。そこで毎回、マンガ用に新たにプロットを書きおろし、ネームのチェックや作画の修正、コラム執筆と、文庫でも書き切れなかったエピソードや社会情勢を入れて、「圧倒的事実」をより「リアル」に伝えられるようこだわっています。

 1巻のケース1で慎介がバットで飼い猫を撲殺するシーンが出てきますが、このシーンには、読者からの批難の声もかなりありました。漫画家の鈴木マサカズ先生も、描くことに逡巡されたようです。でも、現実に起きた紛れもない事実だからこそ、きちんと描写してもらいました。飼い猫に手をかけるまでの詳細は、私が慎介と人間関係を作ることで聞き出せたことでもあります。

『「子供を殺してください」という親たち』1巻第1話より

――マンガ化したことでどのような反響がありましたか?

押川 「差別的だ」とか「金儲けの道具にしている」という批判や誹謗中傷もありますが、巻を重ねるごとに、共感してくれる方や「腑に落ちた」という方が増えたと感じています。たとえば困っている家族が、行政機関や医療機関にマンガを持っていって「このマンガのようになっているんです」とSOSを訴えるケースや、精神疾患の疑いがあるきょうだいを持つ人が親を説得するためにマンガを使うケースもあると聞いています。「家や本人の状況をうまく説明できず困っていた。マンガのおかげで伝えることができた」「よくこういうマンガを描いてくれた」と感謝の言葉もいただきました。