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「あんたなんか産むんじゃなかった」には耐えられたけど…もちぎさんが忘れられない母からの“呪いの言葉”とは

『あたいと他の愛』より #1

2021/11/09

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, 娯楽

母ちゃんは子どもの頃から甘やかされた温室育ち

 あたいが持つ、父ちゃんについての確かな記憶は一つだけ。

 ザラメのついたカステラの駄菓子を買ってくれたことだ。

 父ちゃんと母ちゃんは京都出身で、お互いが10代の頃、街の若者がたむろする純喫茶で出会ったらしい。

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 すぐに母ちゃんはちょっとワルな父ちゃんに惹かれて、一緒に夜遊びばかりするようになった。母ちゃんは商人の家の箱入り娘だったらしいから、それはもう両親に心配をかけまくったようだ。その心配をよそに箱入り娘は、多少裕福な雰囲気の実家より、父ちゃんの家に居座るようになった。そして母ちゃんは、間もなく妊娠した。

 母ちゃんは高校生だったし、父ちゃんも中卒で働いてるとはいえ未成年だった。もちろん妊娠はすぐに両親に気づかれて、ただちに両家の話し合いの場がもたれた。世間体や本人たちの将来のために堕ろしたほうがいいんじゃないか、と提案された母ちゃんは、それだけは嫌だと泣き叫んで反抗し続けた。

 結局、産むことは認められたが、現実面を考えると未成年の2人じゃ、お金や子育ての態勢が簡単には整えられるはずもなかったので、今回だけという約束で母ちゃんの実家から金銭面などのサポートを受け、なんとか出産した。それがあたいの姉ちゃんだ。妊娠した頃には母ちゃんは高校をすでに辞めていたから、心置きなく父ちゃんの家で姉ちゃんを育て始めた。

©iStock.com

 それからも、なんだかんだ母ちゃんの家は甘く、母ちゃんと父ちゃんにたびたび金銭的な援助をしていたらしい。

 母ちゃんは子どもの頃から甘やかされ、お手伝いさんがたまに来ていたような温室で育っていたらしいので家事なんてもっての外で。周りの大人が母ちゃん達の生活を支えなきゃ赤ちゃんの為にもならない、という祖父母の判断だったんだろう。

 だけど姉ちゃんが少し大きくなった頃、父ちゃんは仕事を一変して、違う土地で生きてみたいと提案した。母ちゃんも考えが甘く、それに惚れた腫れたの若気の至りのせいで周りが見えなかったようで、その案に安易に乗っかってしまい、姉ちゃんを連れて3人で京都を飛び出した。それが実家との繫がりを断絶する決定打となったようだ。

 父ちゃんは友人の紹介で始めた仕事で順調にスタートを切り、そのスキルと持ち前の明るさ、そして若さゆえの野心で遮二無二働き倒した。

 給与も潤沢に支払われる会社に勤められたことが幸いして、生活の質は実家に支えてもらってた時とさほど変わらず過ごせたらしい。

 ただ父ちゃんは計画性が無かったから、仕事も同じような業種ではあるが何度か鞍替えして、住処も転々としていった。その度に収入にはムラができて、お金もなかなか貯まらなかったようだ。姉ちゃんはその頃のことを「転校がめんどかった」って振り返っていた。

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