「大泉サロン」といえば「女版トキワ荘」とも呼ばれ、少女漫画の黄金時代を築いた「花の24年組」といわれる作家たちが交流した場として知られている。「花の24年組」の中心的存在でもあり、『トーマの心臓』『11月のギムナジウム』などの代表作をもつ少女漫画家・萩尾望都氏が経験した不遇の時代とは……。

 ここでは漫画家、きたがわ翔氏の著書『プロが語る胸アツ「神」漫画 1970-2020』(インターナショナル新書)より一部を抜粋。萩尾望都氏の漫画にかける情熱がうかがえる伝説的なエピソードを紹介する。(全2回の1回目/後半を読む

◆◆◆

ADVERTISEMENT

伝説的な漫画「11月のギムナジウム」

 僕が漫画家としてデビューしたのは、13歳のときです。「番長くんはごきげんななめ」という作品が『別冊マーガレット』に掲載され、少女漫画家としてのキャリアをスタートさせたのですが、それまでの僕はそれほど熱心な少女漫画の愛読者ではありませんでした。そこで「この先、少女漫画家を続けるのなら、やはり『名作』と言われる漫画を読まなければ」と考えて手にしたのが、萩尾先生の初期作品だったのです。

『11月のギムナジウム』(小学館)

 その第一印象は「やっぱり、すごい」としか言いようがありませんが、このあとさらに萩尾先生の「伝説的な漫画」と出会いました。それが名作『トーマの心臓』の原型となった作品、「11月のギムナジウム」という短編漫画です。

「11月のギムナジウム」は、エーリクとトーマという双子の兄弟をめぐる物語で、『別冊少女コミック』1971年11月号に掲載されました。ちなみに「ギムナジウム」とは、エリートを養成するためのドイツの伝統的な中等学校のことです。

 この作品のストーリーを簡単に説明しますと、まず11月の第一火曜日に、主人公の一人「エーリク・ニーリッツ」という少年が、全寮制の高等中学ヒュールリン・ギムナジウへ転入してきます。この学校には、彼と容姿がそっくりな「トーマ・シューベル」という少年がいました。二人は別々に育てられていましたが、じつは血の繫がった双子の兄弟なのです。

 トーマだけは、エーリクが自分の双子の兄弟だということを知っていました。作中、学園のアイドル的な存在のトーマと、事情を何も知らないエーリクのさりげないふれあいが描かれます。

 『別冊少女コミック』に掲載された「11月のギムナジウム」は、多くの漫画好きたちに強い衝撃を与えました。当時、僕は四歳だったので記憶がありませんが、そうした知識を少女漫画家の笹生那実さんに教えてもらいました。