薔薇といえば、かつての少女漫画の象徴。その薔薇は、乙女らが服をインクで汚しつつ日夜ペンを動かす修羅場で咲いた――本書で漫画家・笹生那実さんは、1970年代の少女漫画の青春譜を漫画で描いた。その時代、萩尾望都ら「花の24年組」の作家たちは競うように描き、少女漫画の新しい表現を切り拓いていた。当時、笹生さんは自分の作品を描くかたわら、特に忙しい時期の漫画家を助けるヘルプアシスタントとして、山岸凉子やくらもちふさこの仕事場に駆けつけていた。その体験が、本書にはふんだんに盛り込まれている。
「東京ビッグサイトのコミティアという同人誌即売会で、2017年春に出した自主出版本を買ってくださった編集者の方から、1週間後にメールが。本の中に、わずか10ページだけ書いたアシスタント時代の思い出を1冊の本にしたい、とおっしゃるんです(笑)」
3年近くかけて描き下ろされたこの本で紹介される逸話は、全て実話だという。漫画家たちの顔は本人の画風を模して描かれている。そっくりな絵を描けるのは、アシスタント時代に、作品に違和感が生じないような線で描いていたおかげという。
「それぞれの先生の描線に合わせたタッチで、モブシーンなどを描いていました」
笹生さんの、そして少女漫画家というものの、非常にハイレベルな“職人気質”が伝わってくる。
本書の核をなすのは、美内すずえさんの元でアシスタントをした経験だ。
「小学6年の時、『別冊マーガレット』の新人公募〈まんがスクール〉で金賞を獲った先生のデビュー作『山の月と子だぬきと』に衝撃を受け、漫画家を志すようになりました。投稿を始め、私も中3で銀賞をいただき、縁の出来た別マ編集部の人が、カンヅメ中の美内先生の所に連れて行ってくれたのが初対面」
高3で初アシスタント、20代では『ガラスの仮面』連載初期の頃を手伝う。