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2021/11/01

 笹生さんは「風に逢った日」(『別冊マーガレット』1973年8月号掲載、笹尾なおこ名義)という作品でデビューした少女漫画家で、2020年に、くらもちふさこ先生や美内すずえ先生のアシスタントをしていた時代の体験を漫画化した『薔薇はシュラバで生まれる【70年代少女漫画アシスタント奮闘記】』(イースト・プレス)が話題となったことでも知られています。僕が「1970年代の漫画」に関する知識で足りないところを埋めることができたのは、笹生さんに依るところが大きいです。

性から遠く離れた、天使のような美少年たち

 では、「11月のギムナジウム」の何がそれほどすごかったのか。たとえば、クラスメイトで学校の中心的存在でもあるオスカーが倒れているシーンがありますが、当時これほど立体感のある絵を描くことができた少女漫画家は、おそらくほとんどいなかったと思います。

 「11月のギムナジウム」の登場人物は、ほぼ全員が天使のようなキャラクターとして描かれていました。ただし、オスカーだけは「ちょっと不良っぽい男の子」で、そうした雰囲気が当時の漫画好き女子たちのあいだで大人気だったのです。このオスカーとは別人ですが、後段で解説する『トーマの心臓』にも、オスカーという名前の少年が登場します。

萩尾望都氏 ©文藝春秋

 萩尾先生が描く男子寮で暮らす男の子たちは「性がない」というか「性の匂いがほぼ存在しない」キャラクターばかりで、人間というよりも「天使」や「妖精」を思わせる雰囲気を醸し出していました。それはまるで、15世紀の初期ルネサンスで活躍した、フィレンツェ派を代表する画家ボッティチェリの描く美少年のようでした。1970年代の女の子たちは「性から遠く離れた、天使のような美少年たち」を、憧れをもって眺めていたのです。

 萩尾先生が物語の舞台にギムナジウムを選んだのは、年頃の男の子たちにありがちな「肉欲の世界」から少年たちを救出するためだったのだと僕は捉えています。テーマ、舞台、キャラクター、すべてにおいて萩尾先生ほど完成度の高い漫画を描けた人は、当時存在しませんでした。もちろん、それまでにも水野英子先生や矢代まさこ先生といったすばらしい少女漫画家もいましたが、萩尾先生の完成度は別格だと思います。

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