2020年、第45代大統領であったドナルド・トランプは大統領選に落選し、2021年1月にジョー・バイデンが大統領となりました。希望の再スタートかと思いきや、選挙から半年が経った5月24日にロイターが発表した世論調査によると、アメリカ人の25%が大統領選挙には不正があったと信じています。

 そんな大混乱の中にあるアメリカを、現地に住む町山智浩氏がレポートし、まとめたのが『アメリカ人の4人に1人はトランプが大統領だと信じている』(文藝春秋)です。同書より一部抜粋して、アメリカの今を紹介します。(全2回の1回目/後編を読む)

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おふざけ動画で1550万ドル稼いだ若き大富豪

「象の歯磨き粉」というのは化学の実験の名前。過酸化水素水、いわゆるオキシドールに、洗剤やパンを焼くのに使うドライイーストを混ぜると、大量の酸素の泡が爆発的に発生する。巨大なチューブ歯磨きが絞り出されたようになるので、そう呼ばれる。

 スプーン数杯のオキシドールでも泡はたちまちビーカーからあふれ出すのだが、これをドラム缶くらいの量でやった男がいる。デヴィッド・ドブリックというユーチューバーだ。泡は火山から吹き出した溶岩のように彼の自宅を呑み込もうとする。その動画の視聴数は2000万回を超えた。

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 今年25歳、子犬のような目と笑顔がチャーミングな青年ドブリックは、プールに4トンくらいのドライアイスをぶち込んだり、人が飲んでいるコーラにメントスを入れたり(二酸化炭素が爆発的に吹き出す)するおふざけ動画の数々で、合計82億回の視聴数と1800万人のチャンネル登録者を集め、2020年だけで1550万ドル(約17億円)稼いだ若き大富豪だ。

「大学出てもドリンク飲むだけで5000ドルも稼げない」

 デヴィッド・ドブリックは1996年、スロバキアのコシツェに生まれた。6歳の時、両親と共にアメリカに移民。シカゴ郊外で育ち、2013年、17歳の時、6秒間だけの動画を共有できるVineへの投稿を始めた。車椅子に乗って障害者のふりをしたりするつまらない内容だったが、2017年にVineからYouTubeに移り、現在のようなイタズラ動画になり、チャンネル登録者は増えていった。