こっちも薄々感づいていたから調査会社に調べさせたんだ。そしたら高校の同級生だという男でね、聞いたこともない中小企業のサラリーマンだった。最初は腹が立ったけど、どうしてこんな貧乏な男がいいんだと呆れたよ。離婚に際して慰謝料は1円も払いませんでした。有責配偶者は向こうだからね。だけど娘がまだ4歳だったから養育費として3000万円だけ渡したんだ。
子どもに罪はないからね。あの子、どうしているだろうね……今年(05年)、成人式なんだよな。
株が大暴落し、客からも売り注文が殺到
平均株価は3万円を突き抜けてもまだ一本調子で値上がりしていたので、今度は持っている株を担保に証券金融から1億円借りて銀行株や商社株を買い入れました。3割ぐらい益出ししたら売り抜けるつもりだったんだ。
ところが90年になったら値崩れし始めた。最初は決算対策で利益確定の売り物だと思っていたんです。せいぜい5パーセントぐらい下げてまた反転すると思っていたのに毎日ダラダラと落ちていく。4万円目前だった平均株価が3万5000円になって、3万円になって、そして大暴落してしまった。
売りが売りを呼んで下げ止まらない。あっと言う間に2万5000円を割り込んで急落だった。もう頭の中が真っ白だったよ。
俺が買い込んでいた株はどれも連日ストップ安で、ほとんど半値以下になったからね。客からも売り注文が殺到したけど、そんなの放ったらかしで自分の持ち株の始末に苦心していました。1年かかって全株投げ売ったけど、入ってきたのは1億2000万円ちょいだ。
2億5000万円の借金をどうにか返済するも、契約解除に
信用金庫と証券金融の借金が都合2億5000万円だから1億3000万円も損を抱えたというわけさ。本当に泡のように消えていったよ……。
証券金融は金利が高いし取立てがきついから先に返したけど信用金庫からの借入れまでは手が回らなかった。仕方ないから家を売ったんですが不動産も値下がりしていたから買値より5000万円も安く買い叩かれてしまいました。
せっせとため込んだ貯金をあらかた引き出してどうにか全額返済したけど、家はなくなる、蓄えはなくなるでスッカラカンですよ。破産したり自殺するよりはましだと思うようにしたけど惨めなものだね。家を手放したあとは小岩のアパートに移り、相変わらず証券外務員を続けていたけど平均株価が下がる一方だったので客なんていませんでした。
証券会社にとって稼ぎの悪い外務員は不用品、「もういいです」ってS証券から契約解除されたのが98年初めです。