「チャンスがほしいんだよ。自分ではどうにもならない苦境から抜け出したいと望んでいる。何か凄い野望があるわけじゃない、単に最低限度の生活を確保したいと望んでいるだけなんだ」

 新作『ローガン・ラッキー』の主人公の思いを語るのは、スティーヴン・ソダーバーグ。

『セックスと嘘とビデオテープ』で芸術映画最高峰の賞とされるカンヌ映画祭のパルムドールを26歳、史上最年少で受賞した。以後、『オーシャンズ11』などハリウッド娯楽大作からアート系映画まで幅広いジャンルで大ヒットを飛ばし続けてきた人気監督だ。

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「この映画に登場するのは、アメリカ映画ではほとんど取り上げられない田舎町だ。米映画協会には長年、『地方に住む我々のための映画をなぜ作らないんだ』と抗議が寄せられてきたと言う。だから僕はそんな人たちに向けて、この映画を作ったんだ」

 舞台はウエスト・ヴァージニア州、かつて炭鉱で栄えた町だ。チャニング・テイタム演じる主人公ジミーは、失業し生活苦から元軍人の弟(アダム・ドライヴァー)とプロの爆破師ジョー(ダニエル・クレイグ)を仲間に、サーキット場の収益金を盗もうと企む。根底にあるのは声なき地方の貧困層が直面する悲痛な現実と葛藤だが、あにはからんや最高に楽しい娯楽作に仕上がっている。自虐的な冗談やドジなアクションが痛快な笑いを誘うのだ。

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 彼は4年前に長編映画から引退すると宣言し、周囲を騒然とさせた。実は、引退というよりも、映画からテレビへ、さらにはインターアクティブやアプリでの映像表現へと仕事の場を移したと言った方が正確だろう。その間ネットフリックスやアマゾンが映像業界に参入し、状況は大きく変化した。彼がプロデュースした作品は、長編シリーズや短編など100本以上に及ぶ。斬新な企画を次々に発案するが、制作したいと思う作品が多すぎて、それを全部監督することは不可能なのだ。

「若い才能ある監督に手掛けてほしいプロジェクトはいくらでもある。でも映画制作の能力があり、かつ大きなチームを統括していける人を見つけるのは難しい。アップルが巨額の資金を出資してコンテンツ制作を始めると言っているが、一体だれが作るんだ? と僕は言いたいね。良い内容でなければ、成功はありえないから。すでに多くのコンテンツが氾濫している状況だが、何よりも大切なのは、質の良い作品を作ることだ」

 彼の新プロジェクトの1つである『モザイク』は、視聴者選択型コンテンツ。お気に入りキャラを選ぶことで、筋書きが異なった形で枝分かれしていくというストリーミング番組。斬新な企画に業界の関心が集まる。時代の先を歩み続けるのがソダーバーグなのだ。

スティーヴン・ソダーバーグ/1963年、アメリカ生まれ。脚本家、監督、プロデューサー、撮影監督および編集者としてマルチに活躍。2000年には『トラフィック』でアカデミー賞を獲得。2013年にはテレビ映画『恋するリベラーチェ』でエミー賞の監督賞を受賞した。2013年に映画業界からの引退宣言をしたが、今作で復帰した。

INFORMATION

『ローガン・ラッキー』
監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:チャニング・テイタム、アダム・ドライヴァー、ダニエル・クレイグ、ライリー・キーオ、ヒラリー・スワンク
11月18日から全国公開
http://www.logan-lucky.jp/

 取材・文: 高野裕子