2013年、ブラジルで大規模な抗議運動が始まった。事の発端はサンパウロで行われた公共交通料金の値上げだった。6月にバス料金値上げに対する抗議デモが行われると、抗議の対象は、さまざまな問題へと広がりを見せていった。物価上昇、税金、性的マイノリティ、女性の権利、人種差別……ブラジルには多くの問題が渦巻いていた。
こうしてブラジル国民の抗議運動が発展していく流れの先で、2015年10月ごろには10代の少年少女、サンパウロの高校生が「公立学校の予算削減案に対する抗議活動」を開始。自分たちの学校を占拠し始めた。
若い力が勝利したかと思いきや、新政権の台頭とともに事態は一変
この高校生による学生運動は、みるみるうちにブラジル全土へと広がり、翌月には200 以上の学校が占拠されるまでに発展。大勢の高校生たちが一丸となって自分たちの「学ぶ権利」を守るために学校に立てこもった。さらに道路も封鎖、国や警察の制圧にも対抗、粘り強い行動で、彼らの信念は、簡単なごまかしで押しきれるものではない、ということを大人たちに知らしめた。
こうして2015年から始まった現役高校生たちによる大規模な学生運動、10代の若い力によって社会に一石が投じられ、ブラジルに大きな変革が始まろうとしていた。快挙と言える展開に……なるはずだった。
ところがその3年後、2018年には「ブラジルのトランプ」と呼ばれるジャイル・ボルソナーロ氏が大統領選挙に勝利、ブラジル初の極右政権へと傾いていく。
やがて事態は一変、高校生に対する制圧は、今までとは比べものにならない暴力的なものへと変わり始める。さらに学校に立てこもる子どもたちに対し、無謀な金額の罰金まで提示。こうして政権交代をきっかけに、立ち上がっていた高校生たちは、自身の将来や、親にかける負荷(罰金は保護者が払うことになる)など、大きな不安を煽られ、激しく失望することになってしまう。
一連の騒動を内側から映したドキュメンタリー映画
2021年11月6日に日本で公開される『これは君の闘争だ』は、このブラジルにおける一連の学生運動を記録したドキュメンタリー映画だ。2015年の学生運動の真っ只中にも、占拠された学内にカメラで入り込んでいる。さらに運動の中心人物であった元高校生の3人の若者が、当時の記録映像を見ながら、時代を振り返りつつ、リアルな証言と意見を交わす。
オープニングからヒップホップ・ミュージックに乗り、ラップバトルで会話するというエンターテイメント性の高い演出で、観るものをグイグイ引き込み、“テン年代(2010年代)”と呼ばれるメインキャストが、この運動で得た経験、そして失ったものについて吐露。ドキュメンタリーでありながら、青春群像劇のような作品に仕上がっている。
この作品の日本公開に先立ち、本作を撮ったブラジルの映画監督エリザ・カパイさんにお話をうかがった。