「とはいえ、多くの映画ができたということで、一部の人たちには学生運動の真意や詳細を伝えることもできています。幸いこの作品は特に、多くの観客を集めることができてきていると思います」
政治犯として拷問を受け、今もトラウマを抱えている父
――改めて、本作を撮ったきっかけについて、詳しくお話しいただけますか。
「2016年、私はこの映画を作ることになる前に、本作のプロデューサーである女性と2人で、占拠された学校の中に入れてもらいました。そのときは、この運動をやっている若い学生の人たちについて、別の作品として撮影をするはずだったんですが……そこで見たこと、聞いたこと、学んだことにすごく感銘を受けたんです。
それがきっかけになってこの映画を作ることになったんですけれど……そこへ至るまでには、私自身の生い立ちが関係しています」
――どのような生い立ちでしょうか?
「私の両親は、独裁政権のさなかに学生時代を送りました。母は一時期、警察に逮捕されて、そのあと地下に潜ったりもしました。父は政治犯として逮捕され、拷問を受けたので、今でもトラウマを抱えています。
このような家庭だったので、私は父と母から、政治的な圧力であるとか、そういったことについて聞かされて育ちました。そして私が生まれたのは、ブラジルが独裁政権であった時代の一番最後の頃であり、私自身も独裁政権の間に幼年期を過ごしたのです」
監督も高校時代、大人と話し合う組織のリーダーだった
「私は、父が教鞭をとっていた連邦大学の中に作られた、公立の学校に入りました。運良くその学校は非常に質の高い教育をしていました。そういう環境で、私は学内に生徒自治会を作って、初代の生徒会長になりました。
これは生徒が自主的に作った生徒会でして、例えば学校内で何か問題が起きたら、私たちが生徒の代表として校長や教員など学校側の人たちと話し合い、解決策をさぐったりするんです。生徒が自主性を持って大人と話し合いをする、そういう活動をしていました」
――生徒会を作って大人と話し合いをしたという経験は、映画の高校生たちに非常に近いですよね。監督ご自身と彼らの共通点や相違点はどんなところでしょうか?
「私の世代は、学校で勉強しながら『ブラジルは、独裁政権を返上して再民主化したんだ』ということを理解していきました。
一方、映画に登場する世代は、物心がついた頃から政権は中道左派。そして学校で学ぶ他にも、周りに情報がたくさんあるので『ブラジルが世界で一番最後に奴隷制を廃止した国』であり『実質的な奴隷制というのは今も存在している』『学年が上がるほど学校には黒人がいなくなる』『社会で一番低賃金に甘んじていなければならないのも黒人である』ということも知っています。学校内にすら制度化された男尊女卑が存在しているし、『ブラジルには絶対的に所得の分配を改善する必要がある』ということを知っているわけです」