ドキュメンタリーなのにエンタテイメント性が高いワケ
――ドキュメンタリーでありながら、この作品には、エンタテイメント的な魅力にあふれています。このような演出をしたのには、何か理由があるのでしょうか?
「当時の高校生たちが何をしたのか、あのとき何が起きたのか……あなたたちの前の世代の高校生というのは、本当に特別だったんだよ、ということを、新しい世代の高校生に知って欲しいと思い、この作品を制作しました。
だけど今の高校生は、ドキュメンタリー作品なんてまず観ない。長い映画も観ないんです。彼らが見るのはYouTubeなんです。確かTikTokは、この作品を作っていた頃にはまだなかったと思います。
とにかくスピード感のあるものじゃないと彼らの注意を引くことができないんです。だから映画にもスピード感が必要だと気づきました。それで編集のスタッフと『この映画は、90分のビデオ・クリップを作る感じにしよう』と話しました。『スピード感があって、15分おきくらいに新しいものが始まる感じにしないと!』と。
それから主役を務めてくれた3人、若い彼らの言語が、私たち古い世代の人間にとって、すごく面白く感じられたんです。そんな彼らのスピード感と特徴ある雰囲気を、私たちの世代の人にも伝えたかった。そういった理由から、エンタテイメント性のある演出にしたんです」
後の世代に継承されない高校生の知識と経験
「私がこの映画を作るとき、当時の若者たちの話を聞いて非常に心を打たれました。高校生活は3年間ですが、その3年が過ぎてしまうと、次の新しい世代の高校生は、何が起きたかを知らされないんです。あんな大きな学生運動があったにも関わらず、起きたことの知識が継承されないんですよ。学校の中に生徒自治会が作られていても、作った生徒が卒業してしまうと、後から来た新しい生徒は、生徒自治会の存在すら知らなかったりする。高校生たちの間で、物事が継承されないということを知って、私はとてもショックを受けました」
――「新しい世代の高校生は、起きたことを知らない」とのことですが、多くの学校が占拠されたことは、テレビの報道で、広く国民に知られていたのでは?
「報道はされたんです。特にサンパウロでは、2015年に大きく報道されました。しかし、報道のされ方に問題がありました。2016年になると、ジルマ・ルセフ大統領が汚職などで弾劾され、副大統領だったミシェル・テメル氏が新大統領として就任しました。ちなみにテメル氏は右寄りです。
この頃は主にサンパウロの学校で起きていた占拠が全国に広まっていました。しかも学校だけでなく、至る所で占拠が行われ、全部でおそらく1000件以上の占拠事件があったと思います。それだけたくさんの事件が起きたから、広く報道はされたんですけれど、その中身が非常に浅かった。『なぜ占拠するのか?』ということについては報道で全く触れられず、多くの人は占拠や運動の真の意味を知らされないままで終わってしまったんです。
その後、当時どういうことがあったかということについては、本作を含めいくつもの映画が作られました。でも映画を観ず、テレビの報道しか見ていない人たちは、いまだに『学校を占拠するなんて、ならず者のやることだし、彼らは犯罪者予備軍なんだ』という考えをもっている人が多いです」