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〈苦しみつつなお働け、安住を求めるな、人生は巡礼である〉

 この本の裏表紙には、アメリカ基地の名前、スコット基地の緯度経度など、高倉の筆圧の高い黒いボールペンの文字が、刻みつけられるように書かれていました。

Mcmurdo
Cape Crozier
Cape Royds
Scott Base 1957緯度
77°51’ 03” S, 166°45’ 45’ E
昭和基地 1957年 1911-12年白瀬隊
69°00’ 22” S, 39°35’ 24” E
1956年11月8日宗谷130人第一次隊。
JHON隊長 officer in chrge OIC
Collin filed officer
Gary Doggo
Petter Nelson
Bill

(原文のママ)

 そして、開き癖がついたページごとに、赤い線が引かれていました。

〈火を放たれたら手で揉み消そう、石を投げられたら軀で受けよう、斬られたら傷の手当てをするだけ、――どんな場合にもかれらの挑戦に応じてはならない、ある限りの力で耐え忍び、耐え抜くのだ〉(『樅ノ木は残った』)

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〈身についた能の、高い低いはしようがねえ、けれども、低かろうと、高かろうと、精いっぱい力いっぱい、ごまかしのない、噓いつわりのない仕事をする、おらあ、それだけを守り本尊にしてやって来た〉(『ちゃん』)

〈苦しみつつなお働け、安住を求めるな、人生は巡礼である〉(ストリンドベリー『青巻』)

©文藝春秋

「ああいうとこ行ったら、自分の命は自分で守れってこと」

「南極着いたら、何やったと思う? すぐにペンギン見つけに行けたわけじゃないんだよ。まず、1週間はサバイバルトレーニング! 結局、ああいうとこ行ったら、自分の命は自分で守れってこと。何かあったとき、SOS! とか、電話して助けて下さいなんて、そんなのはない。スコット基地の隊員から、その訓練を受けたんだ。

 氷から水を作るやり方だろ、非常食の取り扱い方、テント張りを習うんだけど、わざわざものすごい強風のなかでそれをするの。遊びに行ってるんじゃないって、思い知らされる。それと、イグルーってイヌイットの人たちが作る雪の家。固めた雪をブロック状に切り出して、それをドーム型に積み上げてく。何が大変かって、それをマイナス何十度って寒いなかでやるわけ。一緒にやらされてた蔵原(監督)が途中で音を上げて、『健さん、あの隊員に健さんから言ってもらえませんか? 日本から来た4人のなかで、僕は最年長で年寄りだから、もう勘弁してやってもらえないかって』って真面目に訴えてきた。体力が続かないんだよ。

 向こうの隊員はそれ聞いて笑ってた。ザイルとかピッケルの使い方、クレバスの見つけ方、渡り方、泊まるところの掃除、炊事、荷物運び。とにかく全部、平等。自分のことは自分で。あそこじゃ、俳優だとか何だとかって、まったく関係なし」