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勝負の世界に不必要な「情」が入っている

 もう1つは、「矢野監督が選手と兄貴分でいることの弊害が随所に出ているのではないか」ということが考えられる。

 兄と弟で野球をやっていると、出来の悪い弟を見るにつけ、「しょうがないヤツだな」と思いつつも、なかなか二軍に落とせずにいる。本来であれば、一軍で通用しないことがわかれば、二軍に落とすのがプロの世界では常識であるが、それが平然とできないというのは、勝負の世界に不必要な「情」が入っていることが考えられる。

 たしかに勝っているときにはいい。兄弟で野球をやろうとも、「微笑ましくていいじゃないか」などと言ってくる人もいるかもしれないし、勝っているのだから変に変えないほうがいいと考えるにいたることだってあるはずだ。

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江本氏 ©文藝春秋

 けれども、いったん負けだすと歯止めが利かないのが、この関係なのである。とくに5連敗、6連敗と大型連敗をしているときには、指揮官は情を捨てて「非情」にならなくてはならない。

 だが、矢野監督は兄貴分であり続けることに固執するがあまり、負けが込んできたときの修正がなかなか図れない。この点を矢野監督が自らの課題としてとらえ、改善を図ろうとすれば、今とは違うタイガースの戦いが見られそうな気がするのだが、どうも解決しそうにないのでは、と不安になってしまう。

野村克也さんは「矢野は監督よりも参謀のほうが適している」

 実は矢野監督のことは、野村克也さんに生前、一度だけ聞いてみたことがある。するとこんな答えが返ってきた。

「実に真面目な男だよ。リードも無難な配球が多く、基本に忠実なタイプ。セオリー通りのリードが多いので、根拠を聞くまでもなかったから叱った記憶がなかった。『私はこういう野球観を持っています』という話を一度も耳にしたこともなかったし、ひょっとしたら彼は監督よりも参謀のほうが適しているんじゃないのかと思っているんだ」

野村克也氏(阪神タイガース監督時代) ©文藝春秋

 たしかに今の采配についてもそのことが言える。ここぞという場面で不意を突くような攻撃を仕掛けることもなく、選手の能力に頼った面が強く働いている。