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「はたして監督は矢野でいいのか」と疑問しかなかった

 矢野が二軍監督時代、チームの方針として掲げたのが、「1イニングの攻撃が3球で終わってもいいから、積極的に振れ」「出塁したら積極的に盗塁しろ」などと、攻撃面においてやたらと「積極性を前面に出した」野球を進めていった。

 結果、ウエスタンの全115試合で163盗塁を記録。これはソフトバンクが13年に記録した156個の盗塁数を上回り、リーグ最多記録を更新した。こうした二軍での積極的采配を評価したフロントが、金本知憲の後釜に矢野を一軍監督に据えたというわけだ。

金本前監督と矢野監督(2019年) ©文藝春秋

 けれども私は、この事実を知って「はたして監督は矢野でいいのか」と疑問しかなかった。なぜならレベルの劣る二軍ならば、矢野の描いたやり方で成功するかもしれないが、走攻守のすべての面で秀でている一軍では、二軍と同じようなやり方では通用しないだろうと考えたからだ。

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 とくに打撃は、ストライクが来たら初球からすべて振ればいいというわけではない。たとえストライクでも苦手なゾーンに来たら凡打に終わってしまうし、「ストライクだ」と思って振ったら、ボールゾーンに落ちる変化球を投げられて、あっけなく打ち取られてしまうことだって十分にあり得る。

 それを踏まえると、早打ちを繰り返しては凡打の山を築いている大山は、矢野野球を具現化した選手ともいえる。一部の野球評論家や阪神ファンから「大山を4番から外せ」と非難の声が出ても、シーズン終盤まで頑なに外そうとしなかった矢野監督からは、彼がよく口にする「オレたちの野球」の中心にいるのが大山だと信じて疑っていないということも十分考えられる。

 けれどもそれで結果を残すことができなかったのも、また事実である。ヤクルトの村上宗隆、巨人の岡本和真らと比較しても、大山はココと言う勝負どころの場面での打点が少ない。他球団の4番と比較して、冷静かつ客観的な分析から4番や中軸から外したところで、多くの人は異論を挟まないはずだ。

大山 ©時事通信社

矢野野球が変われば優勝が見えてくる!?

 2021年は阪神が優勝する最大のチャンスだけでなく、矢野監督が「名監督の道」を歩んでいけるかどうかの大きなターニングポイントとなる年だった。それが2年連続2位という結果に終わり、来季こそその真価を問われる最終年となった。

 来季は采配面において「矢野野球はこれまでとは違う野球」を見せることで、阪神は17年ぶりの栄冠をつかむことができると信じている。ここで言う「これまでとは違う野球」とは、「4番・大山」に代表されるように、打順や守備位置での聖域をなくし、粘り強い攻撃と堅守の野球ができるということだ。

 大きくチームを変えるには、同等かそれ以上の苦しみが伴うことは十分承知しているが、阪神の一OBとして、来季こそ矢野野球が大きく進化することを期待したい。