勝ちへの道筋
そして迎えた10月14日の大一番、昇級者決定戦決勝戦。振り駒の結果は先手。高見七段の得意戦法を受ける必要がなくなったのは正直ホッとした。
対局が始まった時に、あぁ今日は体も心も状態がいいな、そう感じた。家族の支えに感謝である。
昇級をかけて戦うわりに、焦りもプレッシャーも感じなかった。野球選手が言う「好調な時はボールが止まって見える」という状態で、実力以上のものが出せた気がする。
相掛かりの選択も当たり、中盤でリードを奪って終盤では早い段階から勝ちへの道筋がハッキリ見えていた。
【第34期竜王戦3組昇級者決定戦・高見泰地七段-遠山雄亮六段】
— 読売竜王戦【公式】 (@yomiuri_ryuo) October 14, 2021
勝った棋士が2組昇級となる一戦。午後3時過ぎ、相掛かりで手の広い中盤戦を迎えています。
高見七段は刺すような眼光で考慮し、入室の穏やかな表情とは別人です。遠山六段は自然体で熟考しています。#竜王戦 #高見泰地 #遠山雄亮 pic.twitter.com/D1zMWk9mia
終盤、席を立った時に軽くめまいを覚えた。気が付かないうちに疲れも緊張感もピークに達していたのだろう。この時にもう一踏ん張りできたのは支えや応援のおかげだと思う。
恐れていた高見七段の終盤力を封じきり、簡単な詰みがみえた瞬間に喜びの気持ちがわいてきた。
しかし、いざトドメの手を指す時にはもう気持ちは落ち着いていた。帰りの電車の中では、2組での対戦相手を予想して対策を考えている自分に対し、自分自身少し驚いた。
この勝利で、まだ若手に抗えるという自信と、さらに上を目指すモチベーションも得たようだった。
励みは同世代の頑張り
翌日、たくさんのお祝いメールやメッセージ、Twitterでは多くのリプライをいただいた。タイトルを目指す若手棋士であれば途中経過のような昇級でも、筆者にとっては価値の高い昇級である。応援のありがたみを改めて実感した。
翌々日の夜に家族とお祝いをして、翌週の順位戦の対局に向けて気持ちを一区切りつけた。
そして、その対局では若手強豪(梶浦宏孝七段)相手に望外の勝利。昇級という結果は、こうして後までいい循環をもたらすのだと改めて実感した。
今期の竜王戦では、同世代の松尾歩八段(2組→1組)や佐々木慎七段(4組→3組)も昇級を果たしている。同世代の頑張りは励みになる。
各組の優勝と準優勝以外にも、昇級者決定戦で昇級すると3位賞金が出る。組が上がれば対局料なども積み上げられるため、昇級すると収入増に直結する。
それを見込んでPCを追加購入した。賞金でPCを買うとはどこかで聞いたことがある言葉ではないだろうか。藤井聡太三冠のような将棋を指すことは難しくても、向上心や探究心を見習ってモチベーション高く今後も将棋に向かいたい。