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品質管理レビュー頼りの検査

金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件簿』(講談社)

 公認会計士・監査審査会の検査は、基本は日本公認会計士協会が会員の監査法人を対象に年間120件前後実施している「品質管理レビュー」に頼っていた。品質管理レビューとは、金融庁の銀行検査のような厳格な検査とは異なり、公認会計士協会が原則三年に一度の割合で二人一組のレビュワーによって1、2週間ほど調べる簡素なものにすぎなかった。監査審査会は、協会から上がってきたレビュー結果をもとにして、問題がありそうなもの、リスクのありそうなものを十件程度、抽出して検査することにしていた。その約十件は、協会からどういう指摘を受け、それがどう改善されているのかに着眼して選んでいた。つまり、品質管理レビューというスクリーニングを通じて浮かんできた著しく問題がありそうなところに絞って検査していた。

 こうした慣例を踏まえつつも、佐々木は着任当初、独自色を出そうと試みた。犯罪に抵触していそうな“札つき”の問題監査法人の検査に取り組もうと思っていたのである。監視委で不公正ファイナンス案件の摘発にかかわるなかで、クライアント企業の法令違反を疑われるケースを監査法人が黙認していると考えられるものが少なからずあった。ライブドアにおける港陽監査法人が一例だが、「現代の仕手筋」と呼ばれた問題企業の監査には、必ずセットのようにして登場する“札つき”の問題監査法人があった。

ウィングパートナーズ解散へ

 その一つが、東京・渋谷を拠点とした監査法人ウィングパートナーズだった。いわゆる「箱」企業(編集部注:経営状況が悪化した結果、株価操作のための箱として利用される企業)の監査を数多く受け持っており、住宅リフォーム会社のペイントハウスを始め、ネステージ、オー・エイチ・ティー、それにリキッドオーディオ・ジャパンの後身企業ニューディールなど、株式市場を騒がせる曰くつきの会社を数多くクライアントとしていた。これは佐々木着任前の09年のことだが、監査審査会がウィングパートナーズを検査したところ、監査の品質管理を保つ意識が乏しいうえ、有価証券報告書に事実と異なる記載をし、十分な審査をせずに監査意見を表明していることが判明した。

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 検査結果を踏まえて監査審査会は2月、公認会計士法に基づき金融庁に行政処分をするよう勧告した。金融庁はそれを受けて3月、ウィングパートナーズに新規契約の1年停止などの行政処分に踏み切った。さらにウィングパートナーズが、ペイントハウスで本来は認められない利益を計上するのを容認し、ソフトウエア会社のゼンテック・テクノロジー・ジャパンでも売り上げの架空計上を認めていたことから金融庁は7月、再度、1ヵ月の業務停止を命令した。あわせて赤坂満秋代表社員ら3人の公認会計士を1年半~3ヵ月の業務停止処分にした。締め上げられたウィングパートナーズは結局、解散に追い込まれた。