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新たな「駆け込み寺」監査法人を設立

 だが、これで一件落着とはいかなかった。「いったん解散したのに、そこにいた会計士が別の人間と一緒になって新たな監査法人を作ってしまうんです。簡単に離合集散ができてしまうんです」(佐々木)。監査法人は公認会計士法上、公認会計士が5人以上集まれば開設することができる。仮にその会計士が、監査ではなくてコンサルティングや税務を受け持っていても、あるいは常勤ではなく非常勤であったとしても、5人の会計士がそろいさえすれば、金融庁の認可を受けることもなく、届け出るだけで設立できるのだった。

 解散したウィングパートナーズのメンバーは処分後、別の新しい監査法人を創設し、そこが再び問題企業の監査を受け持つようになった。それを佐々木は「駆け込み寺」監査法人と呼んだ。「どこが駆け込み寺なのかは言いませんが、その監査法人も、あるいはそこにいる公認会計士も我々はずっとフォローして監視していました」と言う。このウィングパートナーズの後継とみられる監査法人の一つに対しては、公認会計士・監査審査会はずっと注視し、あるときは狙いをつけて検査したものの、明確な法令違反行為を発見できず、結局、処分に追い込めなかった。向こうも同じ愚を犯さず、手ごわいのである。

不審な監査法人が放置されてしまう期間

 監査審査会は、「箱」企業を平気で顧客とするような不審な監査法人が設立されたといっても、そこですぐ介入して是正措置を講じることができるわけではなかった。

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 その監査法人が、怪しい会社の決算に対して監査意見を「適正」と表明し、その後、公認会計士協会が品質管理レビューを行い、そこで問題点が浮かび上がった後に、やっと監査審査会が動く、という段取りを踏まなければならなかった。

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「これだと、監査法人が設立されてから1年半、あるいは2年ぐらい経たないと、審査会の検査ができないんです。その間に『適正』とされた有価証券報告書が提出されてしまい、株式市場に誤っている情報が提供されてしまうかもしれないんです。指をくわえて、こういう状態を放置していいのだろうか、という問題がありました」(佐々木)

 しかも監査審査会は、毎年3月から6月ぐらいの、決算期末のあとの数ヵ月間は監査法人にとって繁忙期にあたるため、監査法人に検査に踏み込めないでいた。それに7月は役所の人事異動がある。そうすると、8月から翌年3月までの8ヵ月間しか検査できるタイミングはなかった。監査審査会は、この8ヵ月間にひとつの検査チームが三つの監査法人を検査できればいいほうだった。全国の監査法人をくまなく検査するには20年以上かかるため、いったん検査に入られた監査法人はそれを見越して、「次に検査を受けることは少なくとも20年はない」と高をくくった。