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東証二部上場の制御機器メーカー、春日電機では08年、同社株を買い占めた篠原猛という人物が創業家を追い出して社長に就くと、春日電機から自身が経営する別の会社に5億5000万円を融資させたうえ、焦げ付かせた。それを知った監査役は篠原の違法行為の差し止めを求める仮処分を東京地裁に申し立てた。東京地裁は監査役の請求を全面的に認め、篠原は辞任に追い込まれ、その後、警視庁に特別背任容疑で逮捕されている。このケースではビーエー東京監査法人が異常な資金移動に気づき、金商法193条の3の規定に従って監査役に通報した。それが篠原社長の違法行為の差し止めにつながった。
「抜かずの宝刀」を抜く
とはいえ、これらは極めて珍しいケースだった。「通常は監査法人から指摘を受けたら企業は改善するんです。それでも企業側に改善の意思がない場合は、『もうお宅の監査は受けません』と監査法人が交代する。たいていはそこで終わってしまうんです」(佐々木)。だから、佐々木がいかに金商法193条の3の効用を推奨してみても、金融庁に告げ口までして監査法人が改善を促すような例は稀だった。いわば監査法人にとっては、抜かずの宝刀であった。
その、めったに使われることのない宝刀を、四大監査法人のひとつ、あずさ監査法人は抜くことを考えたことがあった。クライアント企業はオリンパスだった。
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