2021年7月、福岡県内の保育園で、送迎バスに園児が置き去りにされ、熱中症で死亡する事故が起きた。同月には千葉県で、乗用車に放置された1歳児の死亡事故が起きている。
車内放置による悲痛な死亡事故は、毎夏のように報道されるにもかかわらず、具体的な予防策は見出されていない。このような事故が起きるたび、俎上に載せられるのはもっぱら「監督者の責任」である。
もちろん、子どもを保護・監督する立場の者に責任が帰せられるのは当然ではある。とはいえ、思わぬ過失によって子どもを死に至らしめてしまう悲劇を、責任の一言で済ませるのはあまりに救いがない。
過失による乳幼児の死亡を「責任問題」に回収していては、根本的な防止策は生まれない。事故の予防に確たる効果をもたらすのは、責任感という不確実な要素ではなく、技術や制度を通じた対策であるはずだ。
車内放置は「車両側のシステム」で防ぐ
車内放置に対する技術的な予防策としては、車両側のシステムを通じた注意喚起が考えられる。実際に、現状でもそのようなシステムは開発されており、欧米においてはすでに、「CPD(Child Presence Detection : 幼児置き去り検知システム)」の搭載をメーカーの責務とする趨勢が強まっている。
CPDとは、車載センサーなどによって車内への置き去りを検知し、警告音などでドライバーに知らせるシステムの総称だ。現在、米国では新型車へのCPD搭載を義務化する法案が審議中で、欧州においては新型車両の安全性能評価を行う「ユーロNCAP」の評価基準として、CPDに関する項目が2023年から導入される見込みである。
国内におけるCPDの普及状況はどうか。トヨタ・ホンダ・日産の3社に現状と今後の展開予定について尋ねたところ、トヨタはシエンタやヤリス、ハリアーなど、ホンダはヴェゼルやHonda e、N-ONEといった車両に同機能を搭載しており、今後も搭載車種を拡大していく意向であった。日産については現状国内の導入モデルがなく、今後については「検討中」とのことである。
欧米との温度差
国内メーカー各社の日米ラインナップを比較すると、米ではCPDが搭載されている車種でも、日本向けモデルには導入されていないケースが見られる。今のところ、国内での導入例は一部メーカーの最新車種に限られており、業界を通じての積極性は薄いと言える。
行政による制度面からのアプローチも、現状では検討外にある。自動車アセスメントを管轄する国土交通省によると、同評価試験の評価対象にCPDを含める意向は今のところなく、今後の普及状況や社会情勢をふまえて検討していく見込みだという。