2021年10月31日午後7時30分。高松市の中心部から20分ほど車を走らせた場所にある、小川淳也の選挙事務所に私はいた。
地元メディアの記者が私に耳打ちをしてくれた。「意外と早く出そうです」。「出そう」とは、当確のことだ。ほんまかいな。すぐに相棒の高橋秀典カメラマンに伝える。高橋の顔が引き締まる。
まさか8時に決まるとは……
4年前の2017年の総選挙では、開票速報が始まった午後8時から結果が出た午前1時過ぎまでの5時間あまり、彼はほぼすべての時間カメラのスイッチを切らず、トイレにもいかず、事務所の状況を撮り続けた。今回も接戦が予想されていた。夕方にホテルを出るとき高橋は「テッペン(12時)くらいすかね。水分は控えとかんと」と、強い大阪訛りで言い、長丁場の撮影を覚悟していたのに……。
午後8時、開票速報が始まるや否や、テレビ画面の隅に「小川当確」のテロップが打ち出された。その瞬間、会場全体が「どん!」と動いたような感覚を味わった。集まった200人以上の人たちの雄叫び、歓喜の声が上がる。女性の声のほうが多い。沸き起こる「淳也コール」。
しかし、深々と頭を下げる当の本人は、落ち着いた表情をしている。小川のスピーチが始まった。私は高橋カメラマンの動きをチラチラと見ながら、彼がカメラを向けていない方向に、レンズの照準を合わせる。苦手なカメラを構えながら、考えていた。
「まさか8時に決まるとは……」
対照的なキャラクターの候補者が並び立った、香川1区
国会が閉幕した2021年6月下旬、私は映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』の続編に当たる新作『香川1区』の本格的な撮影を始めた。『なぜ君』の公開後も小川淳也の撮影は続けていたが、新作のタイトルを『香川1区』と決めたのは6月に入ってからだった。
小川が主人公で、彼の活動が映画の柱になることには変わりはないが、今回は相手候補でデジタル改革担当大臣(当時)である自民党の平井卓也氏と、彼の支持者の声も映画の中に盛り込みたいと考えていた。構想を練っているうちに、平井氏のオリパラアプリをめぐるいわゆる「脅し発言」が、朝日新聞や週刊文春のスクープによって明らかになっていく。小川と平井。考えてみれば、これほど対照的なキャラクターの候補者が並び立つ選挙区があるだろうか。
平井氏は三世議員で、祖父も父も大臣を務めた政界のサラブレッド。加えて平井家は、地元でシェア6割強を誇る四国新聞と日本テレビ系の西日本放送のオーナー一族である。自身も大学卒業後は電通で働いたのち、29歳の若さで西日本放送の社長に就任するなど、一家は「香川のメディア王」と呼ばれている。
一方、小川は「パーマ屋(美容院)のせがれ」で、東大を卒業後に自治省(現・総務省)の官僚として働いたのちに、2003年に当時の民主党から初出馬した。「地盤・看板・カバンなし」の小川は、その純粋さ、誠実さから永田町では変わり者扱いされ、「修行僧」と呼ぶ者もいる。