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薬価を引き下げなければならない事情

 この問題を見たとき「何で薬価を引き下げるんだ。厚労省は怠慢だ」と怒る有権者がいる一方で、お前らの給料から天引きされる社会保険料を見て「何でこんなに社会保険料が高いんだ。厚労省は怠慢だ」と怒ることになります。

 なぜ薬価を引き下げなければならないかというと、社会保険料を引き上げなければいまの医療水準や薬価、医薬品流通は維持できなさそうだからですよ。

 薬の販売は、製薬会社→卸業者→病院・薬局→患者さんの順で販売されますが、ここで言う「薬価」とは薬価制度において病院・薬局から患者さんに売る薬の値段を規定しています。なぜ国が決めるのかというと、患者さんが負担するお薬代は健康保険が一部を負担するからです。また、かつて問題になった肺がん治療薬オプジーボなど1回2,000万円という高額治療を受けるにあたり、一定金額以上のものはこの健康保険が負担してくれるので「保険で認められている高額治療が受けられなくて人が死んだ」ということのないような制度設計になっています。

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 その結果、高齢者が超絶増えている昨今、これらの薬価をいままで通りばら撒いていたら健康保険制度が持たないばかりか、現役で働く世代がいま以上に社会保険料を担わされたり、貴重な国税が投入されたりすることになります。

 結局、突き詰めれば医療も年金も介護も薬価も、「日本は年寄りが増えすぎて、社会保障の制度が持たなくなった」ということに尽きます。金がねえんだよ。

「高負担・高福祉」か「低負担・低福祉」か

 本当なら、衆議院選挙ではこういう話題を争点にするべきだったと思うし、本来の意味で自民党や立憲民主党らが「分配」を言うのであれば、このような問題についてもっと税額を上げてでも薬価を維持して社会保障におカネを突っ込む「高負担・高福祉」か、もうこれ以上の薬価は払えないんだという「低負担・低福祉」かという態度を各政党がはっきりさせるべきじゃないのかな、と思うんですけどね。

「厚生労働省が悪い」「薬価を引き下げるな」と批判したい人たちの気持ちも分かるんですが、これは明らかに政治の問題です。コロナも医薬品問題も、医療崩壊とは「昔と同じように、湯水のように社会保障費を使えないぐらい働く人が減った」日本の衰退による生活水準の引き下げの具体的な現象の一つなのだと弁える必要があるんじゃないでしょうか。

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