TPOをわきまえられないのはASDの特性
松下さんの事業所では、主に発達障害の子どもが多いという。
松下「小学校高学年や中学生になると、性的なからかいや、性的な言葉を連呼することもありますが、それも年相応の振る舞いであり、正直、問題なのかな? と思います。性的な言動をすること自体は、健全な発育の証であるはずです。
ただTPOをわきまえられないのはASDの特性なので、『そういう発言をする時は、状況を考えなさい』『そうした話題が苦手な人や、女の人がいる場合は、言うのはやめなさい』と伝えています。
自分が男性の職員だから……というよりも、自分が比較的子どもたちと年が近いので、そうした注意をする役割になっていることが多いです。
『女性の職員がいるところでは言わないように』とも伝えています。女性の職員も、そうした言葉が聞こえたとしても、スルーしていますね。
相手の気持ちが読めないというのは、ASDの特性です。ただ、場所やボリュームを考えずに性的な言葉を口に出してしまうことが問題であり、性的な言葉を使うこと自体は全く問題だと思っていません。
保護者の方としては、自分の息子の口からそういう言葉は聞きたくないかもしれないけれども、個人的には『その年頃の男の子だったら、まぁ言うだろうね』という感じです。年相応の成長の過程であり、TPOをわきまえてさえいれば、それでいい。
つまり、あくまで社会規範のトラブルであって、性のトラブルではない。社会のルールをまだ認識できていないというだけの話だと思います」
性に対する意識がそもそもない子どもたち
社会のルールを認識できない背景には、羞恥心の問題も絡んでいる。発達障害のある子どもの中には、年齢相応の羞恥心が芽生えないケースもある、と松下さんは語る。
松下「発達障害の子どもの中には、健康診断や体操着に着替える時、みんなの前で恥ずかしげもなく全裸になったりするなど、性に対する意識がそもそもない子もいます。
本人には全く性的な意識がなくても、周囲から『性的な行動をしている』と捉えられてしまう。この認知の差は非常に大きいと思います」
発達障害のある子どもの人前での脱衣や、性的な言葉の連呼については、職員間で問題化されることも少ないという。
松下「こうした問題に対しては、職員で共有はしますが、そこまで詳しく言わない。『今日も言っていましたね~』くらい。ただの報告で、記録にも残しません。そもそも解決する必要性が見いだせない。保護者さんとしては問題かもしれませんが、こちらでは何も思わない。そういう話をせずに大人になってどうするんだろう、と思います」