タクシー業界に押し寄せる変化の波
この仕組みは行政だけではカバーしきれない輸送をタクシーが補い、アフターコロナの高齢者医療インフラを担うという期待もある。だが、現状では問題点も少なくないと指摘するのが、輸送を請け負う関西のあるタクシー会社代表だ。
「コロナ輸送を請け負うことで、風評被害を受けるリスクもあるんです。『感染者を乗せる会社のタクシーには乗りたくない』という旨のもので、実際にウチにもいくつかそういった声があった。これは通常のタクシー営業の収入にも影響が出てくる。決して売上げに繋がる仕事ではなく、地方には懐事情的に専用車両にできない社もあるんです。だから断った同業も少なくない。確かに感染者は減りましたが、万全を期していても感染対策については未だに厳しい見方をされることもある。観光業や飲食業の状況は依然厳しく、一部の大都市を除けば、感染者減の効果が表れるのはまだまだ先の話でしょう」
五輪閉幕から3ヶ月の時を経て、東京ではようやくドライバー達にとって最低限の水準まで市場が戻りつつある。そして、輸送方法や目的といった面でも変化が生じ始めているのだ。今後タクシー業界はどんな動きを見せるのか。先出の西川代表がいう。
「2019年度との対比でみて、10月前半には約70%程度までは売上げが戻ってきました。ワクチンの普及が進み既に人出も増えてきて、80%から90%に戻るという期待感もあります。それでもテレワークが浸透し、コロナ以前の水準に戻ることは難しいでしょう。タクシーの乗り方も、従来の“手をあげて乗る”から、“アプリで呼ぶ”に変わりつつあり、決済においても、現金からキャッシュレスにシフトしてきた。DX化を進めていくことで、コストをいかに減らしていけるかが、生き残っていく上で重要になってくるとみています」
五輪を機に一つの時代が終わり、タクシー業界にも変化の波が押し寄せている。耐え忍ぶだけではなく、変革を打ち出せるか否かも、未来を占う上で重要な要素となりうるだろう。