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森喜朗氏の「女性の会議は長い」発言は日本の何を変えたのか…男性も批判の声をあげた理由

來田享子教授と振り返る「東京五輪問題」#1

2021/11/14
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――來田さんがそこまで深刻に捉えたという一方で、組織委もメディアも当初は「また森さんが失言を」くらいで反応が鈍かった記憶があります。

「組織委は、『多様性と調和』というビジョンを掲げてはいましたが、過去6~7年の活動実績を見る限りジェンダーは埋もれていたんですよ。多様性という言葉はなんでもかんでも入れ込める魔法の器のように便利な言葉で、そこからジェンダーが消えてしまっても気がつかれにくい。

 日本はジェンダー平等を中心に置いていないんです。ジェンダーギャップ指数が156カ国中120位(世界経済フォーラムが2021年3月に発表)ってそういうことじゃないですか。やっぱり日本社会の遅れが、そのまま縮図のように組織委員会の中でも再現されてきたということですね」

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森氏批判からジェンダー問題へとシフト

――メディアも当初それほど大きく取り上げなかったですよね。

「発言の翌日からちょろちょろと取材の依頼が来ましたが、私の感覚では取材の方向性は主に2パターンありました。一つはとにかく森さんの辞任劇を扇情的に報じようというもの。もう一つは日本でジェンダーの話題が広がらない状況に問題意識を持っていて、この発言を議論のきっかけにしたいというものです」

――どちらが多かったですか。

「最初の頃は、前者の扇情的な取材の方が多かった気がします。ただ取材を受けているうちに、森さんの辞任劇だけで終わらせてはいけないと感じて。『森さんってこういう人だよね』ってネット上で騒いで終わりにすることが本質ではない。この問題を強く社会に意識していただく必要があるんじゃないかと思った。それが発言翌日の半日間に起きたことでしたね」

リオ五輪当時の森喜朗氏 ©文藝春秋

――森発言翌日の夜、來田さんが会長を務める「日本スポーツとジェンダー学会」の執行部名で、「この国の社会やスポーツのあり方が問われている」と緊急声明文を発表しました。それがNHKなどで大きく報じられて一気に広がりましたよね。森さんへの個人批判から、ぐっとジェンダーの議論にシフトしました。