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森喜朗氏の「女性の会議は長い」発言は日本の何を変えたのか…男性も批判の声をあげた理由

來田享子教授と振り返る「東京五輪問題」#1

2021/11/14
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緊急声明に男性の共感が多かった理由

「そうですね。あの声明文をきっかけに、単なる辞任劇として煽ることが、さらに差別を上塗りすることになると気づいてくださった方もいた。そしてもうひとつ、声明文を報じた新聞を読んだ読者からお手紙を頂いたのですが、男性の共感が多かったんですよ」

――え、それは意外。どういうことですか。

「森さんの発言は女性蔑視的な部分が問題視されているけどそれだけじゃないと。リーダーの言うことが絶対的で、異論を唱えることがしにくい日本の組織のありように問題を感じるという意見です。女性だけの問題ではなくて、男性も日頃感じている生きづらさも問題視されたことが希望に思えたという男性の反応が結構多かったんですよ」

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――ボーイズクラブ的な会社組織の中で息苦しい思いをしている男性陣が共感したわけですね。単に女性だけの問題ではなく、これまで自分事ではなかった男性たちの思いが重なったことで大きなうねりになったという。こういうことってこれまであったんですか。

「見られなかったですね。もしかしたら60年代とか70年代に、古い時代の価値観への抵抗とウィメンズリブ運動とが一体化した時代もこういうことだったのかもしれません。ただ、私が体感している限りでは、ジェンダー問題に男性が自分の置かれた状況を重ねて共感する“二重性”というのはそれまでなかったです。やはりジェンダー問題は女性問題とかLGBT問題としてクローズアップされがちでしたから」

 こうした“二重性”ともいえる動きが大きなうねりとなって、森元会長の発言は社会を巻き込む議論となり、当初「森氏の謝罪を理解する」としていたIOCも一転、「森会長のコメントは絶対的に不適切であり、IOCのコミットメントとオリンピックの改革と矛盾している」と表明。森会長は辞任に追い込まれた。

自分自身が変わっていくことへの葛藤

――森さん自身、想定外の動きだったんでしょうね。軽く口にして、なんでこんなに騒がれているんだと思っていたら、男性たちもそれはおかしいと言い出したという。

「でしょうね。森さんの発言は、タイミング的にスポーツ組織に女性を増やせというスポーツ庁のガバナンスコードが出された時期と重なっているんです。他の様々な委員会の議事録を見ても、森さんは『女性ががんばって発言してくださっていて』みたいなことを随所で発言してるんですよ。女性が頑張っていることを応援しなきゃいけないという意識はあった。でもそういう風に言うこと自体、女性をまだ特殊な存在と捉えていることの現れだということを、森さん自身が意識できていなかった。人間はすごく矛盾を抱えていて、価値観が変化する中で自分自身が変わっていくことに葛藤を感じる生き物なんです。その葛藤を森さんは体現していた人物だったと思います」

――なるほど。