昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

連載クローズアップ

「出来のいい“操り人形”になることを意識するように…」万田邦敏監督と出会った俳優・仲村トオルの“変化”

仲村トオル(俳優)――クローズアップ

 11月12日より全国で公開される『愛のまなざしを』は、最愛の妻を失った精神科医と患者として出会った女性が、救いを求め、そして愛しあう物語。主人公の精神科医・滝沢貴志を仲村トオルさんが演じる。

 ある日、貴志のクリニックに恋人との関係に疲弊した綾子(杉野希妃)が現れたことからふたりの時間は動き出す。

 患者の心に寄り添う貴志の姿勢、それが綾子にとって好意が生まれるきっかけとなる。

「台本を読んだとき、難しい内面を持った役柄という印象を受けました。貴志は精神科医でありながら、妻を心の病で失ってしまった過去に苦しめられている。それは屈辱であり敗北です。その深い傷は癒えることなく、むしろ何度も剥がしてはその傷を見ることを繰り返し、余計に悪い状態になっているんです」

©Love Mooning Film Partners

 貴志は一日の診療を終えても息子や義理の両親の待つ家には帰らず、ひとり診察室にこもり、夜ごと亡き妻(中村ゆり)と対話を繰り返す。その傷に気づいた綾子が、貴志の心に入り込んでいく。

「脚本を書いた万田珠実さんとは『UNloved』『接吻』などでお仕事をさせていただきましたが、その作品には自我の強い女性が登場します。難しい関係性が生む緊張感、それを万田邦敏監督が撮ることで素晴らしい作品になる、そんな予感と期待を感じました」

『UNloved』でカンヌ国際映画祭二冠を獲得し、鬼才と称される万田監督はこの作品に何を込めたのか。今作で配られた取材用資料には、監督と水が容れられたグラス、そして影とも光ともとれる屈折したものが写るポートレイトがある。水と器――それはあたかも、心と身体のようにも映る。

「万田監督は作品テーマや登場人物の内面について、ほとんど話をなさらない方です。その写真にも意味が込められているのかもしれません。作中で言うと、トンネルが印象的に映されています。僕は、心の中にある空洞のような、なにかだと思っているんです」

 過去、監督と4作品を作ってきた仲村さんは俳優としての変化があったという。

「監督の作品に出るようになってから、僕は操られること、出来のいい操り人形になることを強く意識するようになりました。ジグザグに歩く、椅子に背をもたせかける、そういう佇まいや声のトーンなど、外側のことを監督にコントロールされたことで今までにないものが内面に生まれてきました。その意味で今作、貴志の心は、魂が抜けた、虚無、だったように思います」

 作品が描くのは「愛」である。しかし貴志と綾子が求める“かたち”は愛しあうなかで異なりを見せ、やがてその「愛」が、人間の性、エゴを露わにしてしまう。

「誰も作品の色について語らないからこそカラフルに見えることがあるし、赤と青を持ち寄っても、誰も紫とも何色とも言わない。光の当たり方で多彩に映る、それが万田作品の解釈が豊かな原因、理由だと思います。監督のポートレイトも、どこかそこに通じているのかもしれません」

なかむらとおる/1965年、東京都生まれ。85年、『ビー・バップ・ハイスクール』でデビュー。86年からは30年間にわたり制作された『あぶない刑事』シリーズ全作に出演。以後、数多くの映像作品に出演している。本年はケムリ研究室no.2の舞台『砂の女』に出演したほか、現在放送中の『日本沈没―希望のひと―』(TBS系)では東山栄一総理大臣を演じている。

INFORMATION

映画『愛のまなざしを』
11月12日公開
https://aimana-movie.com/

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

週刊文春をフォロー